第4話 旅行者と学士
私はこの町の名所や名物を回って最後にこの町の最大の名所である橋にたどり着いた。
この橋は今まで架けることはできないとされていたがとある知恵者が、生贄を捧げたことで、急に川が穏やかになり、橋を架ける事が可能となったという伝承があり、生贄にされた我が子を思い、鬼となった母を祀るための神社も近くに建立したという。
それまではこの地域は、ある土地神を祀る神社があったのだが、橋をかけた知恵者が、その神社を廃社して、新しい神主を招いて建立したという。
確かに、橋に彫られている赤子を抱く鬼女は、実際に鬼女を見て彫ったかのような生々しさである。
鬼女は、川を睨みつけるように彫られており、川が荒れないよう抑えつけているように見える。
私はしばらく、橋の周辺を回ってみると、私以外にも橋や川をじっと見ている女性がいる。
私は少し気になり、その女性に話をしてみた。
すると、その女は学士で橋に関する研究をしており、ここいら一帯の橋を全てを調べていると話したではないか!
これは都合の良い人に巡り会えたものだ。
私は、その女学士に、自分が旅行記を書いており、今回はこの町を題材にしていること、そしてこの橋には素晴らしい彫刻があり、珍しいのでこと、次回の旅行記の参考にしたいので、近場で他にも珍しい橋はないかと尋ねてみると、女学士は、この辺りの橋の全ては、昔、同じ知恵者がかけさせたものだが、この女学士は、件の知恵者の生涯を主に研究しており、知恵者は、領主の命でこの付近一帯の治水や灌漑を行っていたのだが、知恵者が橋をかけたあるいは堤を築いたといったところ町や村では、多くの権力者が悪人と判断され処罰されていた。
この近辺では土地神を祀る神社の神主が、神の名を持ち出して、人を殺そうとしていたとされており、神社ごと廃社とされていた。
昔の裁判記録を確認すると、確かに神主がそのような犯罪をしていたとの記録もあったらしい。
私は女学士に礼を告げると、女学士よれば、他国には部族間の争いによって離ればなれになった悲恋の話だったり、妖精を従えているのではないかとされていた凄腕の工兵とお姫様との恋の話等々、橋に関わる話は多くあるとのことなので、私も、次回は他国にでも行って旅行記を書けるといいな。
そう思って、私は女学士にお礼と別れを告げると、女学士はにこやかに笑い、いえ、私もこのような話に興味を持っていただきありがとうございました。と逆にお礼を言われた。
私が宿に戻ろうとしたとき、微かに女学士が、
「お母さん、貴女が私を必死に取り戻そうとしたときの顔を忘れないために、敢えて鬼女として彫らせたと義父が言っていました。そして、私たちのような親子を増やさぬように、時の権力者に虐げられている領民を救うために治水工事を隠れ蓑として、あらゆる土地に行き、不正を正したと言っていました。」
そう呟いていたのは、私の気の所為だろうか・・・。
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