第5話 高潔な騎士と姫そして魔女


昔々、とある国にそれはそれは美しい姫様がいて、姫様のあまりの美しさにまだ幼い姫様に国中の10歳までの貴族の男性が求婚しようとする事態になったこともあった。


その国の近衛騎士団の中に、ハミルトンという騎士がおり、姫様が子供のときから護衛をしており、姫様が困った時には、必ずハミルトンが側によってきて姫様を助けていて、姫様もハミルトンをいたく信頼しており、ハミルトンがいれば、どんな苦難も乗り越えることができると周りの人達に言っていたくらいだ。


ハミルトンも姫様を心から信奉しており、常に姫様を第一に考えていた。


姫様が年頃になると、婚約者を決めることになったが、多くの貴族の若者が名乗りを挙げたが、姫様は首を横に振るだけだった。


ときには振られた貴族が力ずくて姫様をものにしようとしたけど、常に姫様の側にはハミルトンがおり、彼に勝てるはずもなく、返り討ちあっていた。


王様と王妃は国内では姫が気に入る若者はいないと考え、他国の貴族や王族にも声をかけたが、姫様はどんなに立派な王族や貴族でも首を横に振るばかりであった。


王様は困ってしまい、姫様が唯一、心を許しているハミルトンに相談してみた。


「のう、ハミルトン、お前は姫にたいそう気に入られておる。そこでじゃ。儂らがこれはという若者を連れてくるから、お前がその若者を鍛えてくれんか?そうすれば、姫もその若者を気に入ることじゃろう。」


ハミルトンは確かにと頷き、王様が連れてきた若者を鍛え始めた。


最初の何人かはハミルトンの修行に耐えきれずに止めていったが、その後からは最後までやり遂げる若者が出始めた。


そこで、国王は姫様に向かって、自信満々に若者を紹介するが、姫様は首を横に振るだけ。


そんなことが続くと、どんな若者でも首を横に振る姫様に、対して陰口を叩く貴族も出てきた。


姫様は首を横に振るだけのお高く止まった姫様だと皆が言うようになり、


「氷の首振り姫」とあだ名されるようになった。


姫はどんな陰口を言われようとも、決して婚約者を決めようとはしなかった。


ハミルトンが、修行をつけて自信満々に若者を連れてくる様子を見ると、少しだけ、ハミルトンに対して、怒ったような表情を向けるのを見ると、王妃は困ったように姫とハミルトンを見て、その後国王に対して、


「貴方が余計なことをハミルトンに頼むからですよ。」


とたしなめるように言うと、国王はううむと項垂れる様子だったとな。


ある時、姫の美貌に狂った他国の王が姫を手に入れるべく、挙兵をして国境まで迫ってきた。


姫を守るために、ハミルトンは兵を率いて国境に行き、他国の軍と対峙、姫は万が一のことを考え、別荘のある地へ移動することとなった。


ハミルトンは率いた兵をその卓越した指揮能力で指揮した結果、他国の軍勢を後退させた。


元々他国の王が、美しい姫を手に入れたいという私欲のために挙兵した軍だから、士気は低く、ハミルトン率いる騎兵の前には為すすべもなかった。


さて、姫様は別荘の地に向かおうとしていた。そして、その途中にある橋に差し掛かると、橋の下から恐ろしげな声が聞こえる。


「なんとも、羨ましい事態よの。多くの男に求婚されて、さぞ得意になっていることであろう!」


その言葉とともに、橋の下から恐ろしい魔女が飛び出てきた。

従者が姫を守ろうとするが、魔女が腕を振ると全ての従者がバタバタと倒れた。


「なんということを!貴方は何者です!?」


姫様の叫びに対して魔女は、


「安心しな。ただ、うるさいから意識を刈り取っただけだからね。死んじゃいないさ。」


魔女は腕を組みながら言葉を続ける。


「私は水晶の魔女と言われる存在じゃ。お前と違って私は随分と醜くての。一度も求婚されたことがない。それどころか、醜いから出ていけと何度も住処を追われたものよ。そのおかげで魔女と言われる存在なれたんじゃがな。」


そこで魔女はくっくっくと笑い、姫に話しかける。


「のう、姫よ。おぬしもこのように求婚されたら大変じゃろう。私の秘術で求婚されないようにしてやろうか?あぁ、安心せい。その容貌や精神や心は一切変わらないからの。どうじゃ?」


魔女がニッコリと笑いかける。

姫様は戦争にまで、発展する求婚を疎ましく思っていたから、つい頷いてしまった。


「ハッハッハ。契約はなされた!」


その魔女の笑いと共に姫様は水晶の塊に閉じ込められた。


「ハッハッハ!どうじゃ?約束通り、その水晶の中にいれば、一切、歳もとらんし、腹も空かぬよ!ただし、一つも動けんがな!あぁ、せめてもの情けじゃ。その姿を晒すのは可哀想じゃからの、橋の下に移動してやろう。」


その魔女の言葉と共に姫様が入った大きな水晶は橋の下に移動してしまった。


「惨めよの!橋の下で人知れず生き続けるがよい!」


その魔女の言葉とともに水晶はどんどんその透明度がなくなり、岩のような外見になってしまった。


魔女はその様子に満足したのか、一頻り笑うとその姿は消えて無くなった。



ハミルトンは他国の軍隊を退けた後、賠償金などは、優秀な外交部に任せて、自分は国王に戦勝報告を行った後、姫様を迎えに行こうとしたが、王城に入いると、普段は冷静な従者やメイド達が慌てている。


そこでハミルトンが聞くとどうやら姫様が攫われて行方知れずとなっているらしい。


ハミルトンはとりあえず、国王に戦勝報告をすると、国王は水晶の魔女に姫が攫われたことを告げ、捜索の任にハミルトンを当てた。


ハミルトンはさっそく、姫様や従者達が襲われた橋に行くと何も見当たらない。


しかし、近くの町の人に聞くとそれまではなかった大岩が橋の下にいきなり現れたということがわかった。


それまでは、天気がよく、大岩が流れるような鉄砲水もなかったので町民が不思議思っていることを突き止めたハミルトンは橋の下の大岩を調べ始めた。


すると大岩を調べると岩に見えるがどうやら、水晶らしいことがわかった。


水晶の魔女が現れた後に、色が違うとはいえ、水晶が残された。

ハミルトンはますます大岩が怪しいとして、国軍の兵士を使い大岩を王城まで運ばせることにした。


ハミルトンは根拠はないが、この大岩の中に、姫様が取り込まれていると直感で思いついたのだ。


ハミルトンは、従者達を倒した水晶の魔女に関する知識を授けて貰うために、諸国を歩き、比較的協力的な魔女や各教会にいる聖女や聖人といった人物に会った。


すると、呪いに詳しい聖人が、高潔な騎士百人の血を吸った剣であればどんな呪いでも断ち切ることができるとされている。

と告げられた。


他の魔女には水晶の魔女は動物や珍しい石や草花を研究のために水晶に捉えることも知った。


ハミルトンはそれらを聞くと、時には頭を下げて剣に血を垂らしてもらったり、時には決闘をしたりして、高潔な騎士の血を求めた。


しかし、なかなか百人目の高潔な騎士が見当たらず、ハミルトンは諸国を彷徨う。


国王や王妃が姫を死んだものとして布告をするという国王からの手紙を見ると、ハミルトンは王城に戻り、久しぶりに橋の下から移設した水晶の前に立つ、そして水晶に手を当てると、剣を抜き、自分の手ごと水晶に剣を突き立てる。


すると水晶に罅が入り、澄んだ音と共に水晶が砕け散ると中から姫が出てきた。


ハミルトンは倒れている姫を抱き上げると医者を呼ぶととともに、国王と王妃に報告をする。


ハミルトンは姫様の無事を確認すると、姫様が捕らわれた橋に向かう。


ハミルトンは橋の側で水晶の魔女を呼ぶと水晶の魔女は素直に出てきた。


ハミルトンは何故、姫様を殺さずに水晶に捉えるだけにしたのか、


それも水晶をわざわざ大岩に見せかけるまでして。


すると、水晶の魔女は一人の女性のために争うことや容貌で女性を測ることの愚かさを伝えると素直に、ハミルトンの前に跪き、


「王族に危害を加えたのは確か。さあ、殺すがいい。だが、もう女を巡って戦争を起こすような愚かなことをしないように、外交もしっかりとしろ。」


するとハミルトンは水晶の魔女の手を取り、


「お主こそ、人に虐げられながらも国を思い、かなりの強引な手だったが戦場の拡散を防いでくれた。本当の知恵者だ。ありがとう。」


それ以降、ハミルトンには後々、知恵者と称えられるようになる、橋の魔女が軍師として側につくようになった。


「ハミルトン!朴念仁のお主にとっておきの栄誉が授かる方法を教えよう。」


その後、橋の魔女の手助けを受けて、ハミルトンが姫様に結婚を申し込んだのは有名な話である。


姫様とハミルトンの結婚の際に、橋の魔女が、過去、水晶の魔女として住んでいた橋は作り変えられ、橋の側には石碑が建てられ、碑文には先人の知恵として、好きな異性への想いは必ず伝えるようにと記載されている。

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あの橋の逸話について 鍛冶屋 優雨 @sasuke008

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