第34話 好きで、嫌いで⑵
体育祭の練習が学年全体で行われるため、校庭にまばらに生徒が集まり始める。
「紗霧さん、先行ってるね」
「おう、私もあとから行くよー!」
相浦は服を直しながら、春宮に返事をする。そして、相浦はゆっくりと黒板に歩いていき、チョークを手に取った。そのタイミングで、俺が教室に入る。
「全員いなくなった教室で、黒板への落書きに興じるか…、美術部が聞いて呆れるぞ」
「に、西川くん。そう、ただの落書きなのだよ!西川くんこそ、なんでここに?」
「お前が1人になるタイミングを見計らっていた。それに、ただの落書きなんかで俺は注意などしない」
「それってどういう…」
「しらばっくれる気か。まぁいい。俺はもう行くが、一言言わせてもらう。これ以上春宮を傷つけるな。お前が春宮を極道だと勘違いをしているのなら、それはただの思い過ごしだ」
「…!」
びくんと肩を揺らす相浦。俺の見立て通り、彼女が主犯で間違いがないようだった。
「極道だとか何とか、どうでもいいのさ…」
「なら、動悸はなんだ、プライドか?そんなことをしても、最優秀賞は手に入らんぞ」
「…何がわかるんだよ」
「ん?」
「才能だけのやつに負けた私の気持ちなんて、君には分からないだろ」
あまりの衝撃に、俺は黙り込む。彼女が不気味だからだ。確かに、声色は先程に比べて怒りを帯びていた。しかし、彼女の顔は微笑をたたえたまま。そんな彼女が、俺は不気味で仕方なかった。昼休みの終わり五分前を告げるチャイムがなり、相浦が口を開く。
「話は終わり?もう行くね」
「……」
相浦が教室を出て、俺が一人取り残される。佳奈への攻撃は未然に防げたものの、ただただ教室に立ち尽くしていた。そんな中、背後から声をかけられる。
「遅れるわよ」
「…那月か」
「そ。あんたらが遅いから先生が呼びに行けってさ。あーあ、また先生からの評価上がっちゃうなー。相浦さんには声掛けたから、あとはあんただけ」
「お、おう、今行く」
重い足を何とか動かし、歩き出す。
「ほら、走りなさい。練習始まるわよ」
「はぁ、はぁ、待て…!」
「あんた体力ないのね…。にしても、ださっ」
「はぁ…、はぁ!?」
唐突に罵倒される。那月に罵倒される謂れはないんだが!
「あんだけ任せとけって言っといて、全然事態は解決してない」
「聞いてたのか…!犯人は…、分かったろ!にしても…、まさかあいつが、あんな陰湿なことを…、するとはな!」
「確かにね…、でもあの子、あの様子じゃ反省の色はなしって感じね…。取り敢えず、今必要なのは動悸ね…。未遂とはいえ、犯行の場を抑え、目撃情報も一応あるのにそれを頑なに認めようとしないのは明らかに無理はあると思うけど。そのためには、彼女の身辺を捜査する必要がありそうね」
捜査とはいかにも仰々しい言い方をするものだ。身辺捜査…、何処を捜査するのだろうか。
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