第27話 逃げ出した猫⑹

「全く、災難だった……」


 風呂に入り、ソファーにどっしりと腰かける。全く、今日は厄日だ。


 やはり、人のために何かするとろくな事がないと今日改めてわかった。


「あははは!」


「ストーカー被害は終わっただろ、あいつにとっては消えないトラウマだ。だから早く帰れ!」


「別にいいでしょー」


 まぁ、昨日今日で案外彼女は俺にとって支障はないと思ったから、居てもらう分には別にどうでもよかった。


 だが、流石に風呂に寝床と全部の面倒を見ることになるのはさすがに面倒だ。なので、今日は帰ってもらうことにした。


「静かにしてろよ」


「分かってるわよー。……ところであんた、ゲーム好きなの?」


「資料だよ」


 那月がゲームのパッケージを俺のベッドに寝そべりながら見る。


「でも嫌いじゃないのよね」


「まぁな」


「なら、ひとつ賭けをしない?私とあんたで」


「賭け事はやらんぞ」


「何、お金は賭けないわよ、賭けるのは、命令権。勝者は敗者に命令できる。これでどう?」


「ふむ…」


 悪くない。確かに自分が負けるリスクもあるが、俺には好条件を手に入れる秘策があった。


 これで彼女に適当な命令をさせて、滑稽な姿を肴にトマトでも食べるとしよう。


「わかった、賭けの内容はお前が決めろよ。その代わり俺から賭けるぞ」


 これで、可能性が高そうなほうに賭ける。


「別にいいわよ。内容は、そうね…、あんたの作品に私がヒロイン役で出たらってのはどう?」


「ないな」


「即答ね。なら私は出る方にかけるわよ。ちゃんと覚えてなさいよ?死ぬまで有効だからね」


 そこまでか……。


 やがて、バラエティ番組が終わり、10時になってニュースが多くなった。すると那月は立ち上がり、玄関に向かう。


「帰るのか」


「えぇ、お世話になったわね」


「…またいつでも来い。茶くらいは出す」


「お言葉に甘えて。じゃあね」


 洗濯とシャンプー、リンスを抱え、那月は家に帰る。その様子を見送った俺は、ひとつ疑問に思った。


 今は連休でもなんでもないが、彼女、学校はどうしているのだろうかと。


 まぁストーカー問題も解消されたし、適当に両親の元に戻るか。


 そう、ストーカーがいなくなった以上、彼女がここにいる理由もない。


 元いた家に帰るのが妥当だ。ならあんなこと言わなければよかったと俺は今頃後悔していた。


 しかし次の日……。


「おいおいまじかよ、天下のモデル様だぜ……!」


「間近で見ると、さらに綺麗……」


 久々に俺が朝から顔を出すと、そこには……。


「那月陽菜です、よろしくお願いします」


「まじか」


 那月が居た。どうやら、この学校、それもこのクラスに転校することになったそうだ。


「これからもよろしくね」


「ったく、逃げられると思ったのにな」


「賭けはどっちかが負けるまで……、ね」


「ん?ちょっと待て、どうやったら勝算がある、この賭け!」


 そう、昨日那月は「死ぬまで」と言った。しかし、どちらかが死んだ時点で賭けは反故にされてしまう。つまり俺はどうしても賭けには勝てないのだ。


「……たしかにね、じゃあ卒業までってことにしましょう」


「留年はなしだからな」


「私もそこまで姑息な手は使わないわよ。まぁ、お互い頑張りましょ」


 ヒラヒラと手を振る那月。やれやれ、またうるさいヤツが増えたと、俺はため息をついた。

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