第64話 同盟解消⑴
8月8日月曜日。しろはの誕生日だ。俺はしろはと一緒に、隣町まで来ていた。
朝、しろはがハイテンションで「どこか連れて行って!」と要求してきたため、またもや取材を兼ねてやって来たのだ。
ナイーブな時期かと思ったが、案外本人は気にしていないのかもしれない。
「クレープうっまー!ほんとにいいの!?こんなに美味しいもの貰って!」
「いいぞ。誕生日だしな。ほんと、美味いな」
しろはを見ながら、感じたことを纏めていく。文化祭まで、二ヶ月を切ったからな。
あれ以来、春宮は部活にも顔を出していない。前もこのようなことがあったが、その時は地雷を踏み抜いた時だった。
今のあいつは、多分傷ついている。傷ついているからこそ、他人から距離を置きたがるのだろう。俺は、春宮の力になりたいのに。
「なんかあった?」
「んや、なんにも」
俺は、クレープを頬張り、口を噤む。
「…やっぱりなんかあったでしょ。推理してあげよう。君は今、春宮さんのことで悩んでる」
「エスパーか?」
「簡単な推理だよ、お兄ちゃん。最近ずっと、春宮さんと一緒にいないし。前まではずっと一緒にいたのに」
「正解だよ…、なんか俺、春宮に嫌われたみたいで…」
「ふーん…、そっか。最後の会話、思い出せる?それになにかヒントがあるかも」
何やらしろはは、探偵じみたことを始めた。でも、こうすることで、俺もなにか思い出せるかもしれない。
「それが恋と知れて良かったって」
「へー、それって?」
「胸がチクチクするのが、恋だって教えたんだ。他の誰かと話してるの見ると、チクチクするって言ってたから」
「なるほどねぇ…、青春してるなぁ」
何やらしろはが遠い目をする。1つ下とは思えない、大人びた表情だ。
「何処がだよ。あいつは、俺の友達が好きで、俺は、そいつの友達が好きなんだ。で、二人で協力しあって互いの恋を成就しようってことで、恋愛同盟を締結してたんだ」
「何それ。そんなの長続きしないよ。誰かを制約で縛り付けて、互いに協力して成就した歪んだ恋なんて、上手くいくわけない。だってさ、告白する時は一人だよ。誰も協力してくれない。むしろ、協力する方が、上手くいかない。だからさ、辞めちゃえば?そんなの」
バッサリと、しろはは俺のことを斬りつける。しかし、何処か、肩の荷が落ちた気がした。
「多分春宮さんはね。お兄ちゃんを遠ざけることで、お兄ちゃんとその想い人さんを二人きりにさせようって作戦に出たんだと思う」
「そうか…」
「だからって、春宮さんやお兄ちゃんが傷ついたら、本末転倒だよ。あたしに任せて。夏祭りの日に、屋台でも回りながら説得しとくから」
そう言いながら、しろはは下手くそなウィンクをした。しろは、お前って…。
「最高の妹だな…!」
「今更気がついたの?遅いよ、ちなみにあたしはお兄ちゃんが最高のお兄ちゃんってことには生まれた時から気がついてたぜ!」
「自我強すぎだろ」
にひ、としろはが笑う。これは、クレープ一個では割に合わないな。それから、俺たちはスイーツ店をめぐり、夕飯までも外食で済ませ、姉ちゃんに「飢え死にさせる気ー!?」と怒られてしまった。
確かに連絡を寄越さなかった俺達も悪いが、自炊くらいできるようになって欲しい。春宮を見習って欲しい、もう自炊できるぞ。自炊だけだけど。
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