美人なお姉さんが、シチューをお裾分けしてくれるって!? いいんですか!? この僕が!?

犬犬尾(わんわんお)

なんで……?

※気持ち悪くなるかもしれないので、読む際にはご注意を。


 某国某県某市某所。


 俺——ツクモ・ヨシカゲは、とあるマンションで何の変哲もない日々を過ごしていた。

 ある日、近所に住む美人なお姉さんから、作り過ぎたとシチューをお裾分けしてもらうまでは。

 正直言って退屈のひとことだった。


 バイトに行き、六時間働いて家に帰り、ゲームと好きなストリーマーの配信を見るだけの自堕落な生活。

 彼女もいないし、できたことも無かった。いわゆる彼女いない歴イコール年齢、というやつだ。


 だが前述したように、いきなり俺の元に美人なお姉さんがシチューをお裾分けしに来てくれたのだ。

 詳細は知らないが、近くの住宅街に住んでいるらしい。


 はて、しかしどうしてだろうか。

 何故、美人なお姉さんは近くの住宅街に住んでいるのに、旅行に出かけるような大きな荷物を持っていたのだろうか。


 まぁ、細かい事はどうでもいいさ。

 超美人で、超いい匂いがして、超エロかったから、そんなことは些事も些事さ。


 さて、今日はお裾分けしてもらった、残りのシチューを食べるぞ。

 これでなくなっちゃうのが悲しいけど、こればかりは仕方がない。

 ここ数日は、とっても気分が最高だった。


 ありがとう、美人なお姉さん。

 俺の何の変哲もない自堕落な生活に、花を咲かせてくれて。

 ラノベの主人公にしてくれて。


 あぁ、俺にあんな美人なお姉さんの彼女が出来ないかなぁ。


 ことことこと。


 お、そんなことを考えていたら、シチューが温まったそうな。

 さてさて、では最後のシチューをいただくとしますか。


 うぅ、うまい!! 超うめぇ!! マジ最高!!

 特に、これでもかと詰め込まれた謎の肉が、このシチューのおいしさを引き立てている!!


 俺は心の中で食レポしながら、シチューを頬張った。


 「なんか手持無沙汰だし、テレビでも見るか」


 俺はリモコンでテレビを点けた。


 「ニュースです。数日前から、某県某市某所に住む、行方不明になっている男性。シノノメ・アラタカさんは依然見つかっていないようです」


「またこのニュースか……」


「またシノノメ・アラタカさんと同棲していたとみられる、アイカワ・シオンさんの行方も二日前から分かっておらず、連続して二人の行方が分からなくなったことから、警察は何らかの事件に巻き込まれたのではないかと、捜査を続けるそうです」


「しかも、何らかの事件って、怖いなぁ……早く解決すればいいけど」


 二日前、ちょうど美人なお姉さんに、シチューをお裾分けしてもらった日と同じだな。

 全く怖いものだぜ。やめてくれよな……なんつって。


 てへぺろと、俺は舌を出してふざける。


 俺は立ち上がり、シチューを盛っていた皿と、シチューが入っていた鍋を洗い場で洗い始めた。


「えぇ! いま緊急で、シノノメ・アラタカさんに関する情報が入ってきました! どうやら、行方不明だったシノノメ・アラタカさんの自宅付近から、シノノメ・アラタカさんのものと思われる血痕や、その遺体の一部と思われる、骨や頭髪の一部が発見されたそうです! その付近には、水酸化ナトリウムと思われるものも発見されたそうです!!」


「え……」


 俺は洗う手を止めて、ニュースに釘付けになった。


「骨の損傷具合から、シノノメ・アラタカさんは殺害され、遺体を細かく切り刻まれた後、一部を水酸化ナトリウムで溶かし、溶かせなかったものは、遺棄されたのではないかと思われます! 警察は二日前から行方不明になっているシノノメ・アラタカさんと同棲していた女性、アイカワ・シオンを犯人として、行方を追う方針に切り替えるそうです!!」


「ま、まさかな……」


 俺は心の奥底から湧き上がる恐怖をかみ殺すように、皿を洗う手を速める。


 二日前。旅行に出かけるような大荷物。名前、なまえなまえナマエナマエ。

 ソウ、タシカ、シオンッテ、ナノッテ——、


「おぇ……」


 俺は吐いた。

 なんで、俺なんだよ……

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