第17話 Aパート
これまで戦ってきた怪人の正体が人間であると判明し、
リーダーの
「社長、おれたち、無理っす」
残りの三人は、揃って退職願を書いていた。リベロ部隊の待機所であるクオートのワンフロアにやあやあとやってきた夜長に提出してくる。
「そんなそんな……え、三人とも?」
夜長は驚いて目を丸くしており、突き出された退職願を受け取らない。三人の若者を、右から順番に見る。
「おれたちは、正義の味方に憧れてリベロ部隊に志願したんすよ!」
「社長、
「あたし、おかしいなって薄々とは感じてたんです。だって、あいつらは日本語でしゃべるじゃありませんか! 地球外生命体が、来て早々にぺらぺらしゃべれますか!」
口々に責め立てられて、夜長は両耳を両手で塞いだ。救いを求めるような目でちらりと下鴨を見る。
「君たち、社長を攻撃するのはやめたまえ。社長は騙していない」
下鴨は夜長と三人の間に立った。元自衛隊員という経歴を持つ下鴨は、188センチメートルの大柄で体格がいい。声もよく通る。見下ろされる形になった三人は、肩をすくめた。
「こういうことになると思って、言い出せなかったんだよなぁ……」
部屋の隅で、鳩山がひざを抱えて座り込んでいる。鳩山は、後悔していた。
秘密結社『
「あの撮影映像って、どこでの撮影?」
言い争いには巻き込まれたくない川鵜が、鳩山の近くでしゃがみこむ。鳩山は、川鵜の顔を見て、安堵の表情になった。
「ぼく、
「だけで、とは」
「ぼくより年上っぽい男の人と、中学生っぽい男の子がいて。その男の子のほうが、男の人に茶封筒を渡したんだ。男の人が急いで茶封筒を開けて、中からカプセル――勝風くんが見かけたのと同じだと思う――を手のひらに出して、それから、あの映像」
「ふむ」
みるみるうちに、男性の姿がバッファロー型怪人へと変わっていく。変化しきると、どこかへと駆けだしてしまった。
「ふたりを見かけた段階で、ぼくが声をかけたほうがよかったのかなぁ……それとも、警察を呼んだほうがよかったのかなぁ……。あの日、なんでぼくは実家に帰ろうと思ったんだろう……虫の知らせっていうのかな」
「いいや。鳩山が冷静に撮影してくれたおかげで、自分たちは真実を知った」
「そうフォローしてくれるのは、川鵜さんだけだよぉ……」
「もし声をかけていたら、警察を呼んでいれば、は『たられば』だ。自分たちが、真実を知ったからこそ言えることだ」
「ありがとぉ」
鳩山は感謝の言葉を述べたが、表情は暗い。真実がいつも正しいとは限らない。鳩山が映像を提出していなければ、三人はリベロ部隊から抜けようとは思わなかっただろう。選抜メンバーの仲間割れは望んでいない。
「うぇーい。この階がリベロさんのお宅で合ってる?」
そして、タコ型怪人のオクタンはクオートに乗り込んできた。修羅場であろうとお構いなしだ。
本来、クオート内の見学はサイトから事前に連絡し、予約を取らなくてはならない。そんなことは知る由もないオクタンは、堂々と正面の出入り口からクオートに入り、警備員を触手で締め上げて倒し、下から順番に制圧して、このフロアまでやってきた。
「んん? 誰かの知り合い?」
突如現れた金髪の黒ギャルを見て、夜長はここにいるリベロ部隊のメンバーに対して質問した。六人とも、一斉にオクタンに注目する。
「やば。ここも入って来ちゃいけなかった感じ?」
「アポイントメントのないかたは、お帰りいただけないだろうか」
ここはリーダーが対応すべきと考え、下鴨はオクタンを追い返そうと動いた。大抵の人間は下鴨に歩み寄られると、その威圧感に尻込みする。
「あぽ?」
オクタンは違った。はてな、と首を傾げる彼女はアポストロフィーの幹部である。ただの人間には怖じ気づかない。
「バレてんの? まぢ?」
オクタンは『アポイントメント』という単語を知らない。その『アポ』の部分を切り取って、自らがアポストロフィーの所属とバレたのかと、警戒する。
「いかにも、ここでは仮面バトラーリベロを開発しているわけだけども?」
夜長が説明する。仮面バトラーリベロについては、これからリベロヴァルカンを増産し、いずれはリベロ部隊の増員をもくろんでいた。以前よりその存在は対外的にアピールしており、徹底的に隠し通していた仮面バトラーフォワードとは異なる。
「いひ。ビンゴじゃん!」
オクタンはその背中から四本の触手を伸ばした。そのうちの一本で夜長を絡め取る。
「わ、わあ!?」
「社長っ!」
「へーえ、この人がシャッチョさんかー」
「こ、こぉら! みんなぁあがががが!」
夜長を捕らえられて、リベロ部隊のうちの三人がリベロヴァルカンを手にした。退職願を提出しようとしていた三人は動かない。
「「「変身!」」」
黒い
「に、人間じゃないかっ! 怪人じゃない!」
「そうよそうよ!」
「無理っす! 無理っすよ!」
「ばっははーい♪」
変身を躊躇した三人を、オクタンは躊躇いなく触手でなぎ払う。生身の人間はいともたやすく壁に叩きつけられ、床に落ちた。
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