第14話 Bパート

 お昼はこまち、勝利、お嬢様の三人でこまちのおすすめのラーメン屋に行き、新メニューの『梅塩まぜそば』を食べる。気合い十分の勝利は、ゴートに『仮面で隠れるんじゃが』とからかわれながらも顔を洗い、歯を磨いて、広報部の社員の到着を待った。


「変身ポーズから見せたほうがいいかな?」

『タクトの話では、変身者を明かさないのではなかったか?』

「ええ。そうよ。表では『COMMAコンマ』の社員でも、裏で『apostropheアポストロフィー』とつながっているかもしれないわ」


 用心するに越したことはない。勝利は肩をすくめる。


「秘密結社のアポストロフィー。本拠地がわかれば、あの『Quoteクオート』のリベロさんたちと乗り込んでいって潰せるのにねえ」


 アポストロフィー本体の動きは、Xデイに電波ジャックをしかけてきたあの一件のみ。以降は、怪人アイコンたちを世界中で発生させている。


「あの“アポストロフィー代表”の目撃情報もないですもんね」


 全国各地の街頭ビジョンに映し出された“アポストロフィー代表”を名乗る男。彼の足取りがつかめれば、おのずとアポストロフィーの所在地も判明しそうなものだが。


「あの人、なんていうかじゃない?」

「わかります。どこにでもいそうなおじさん、って感じ」

「普通すぎて、逆に見つけづらいのかも。木を隠すなら、森の中って言うじゃない」


 もしアポストロフィー関係者が聞いていたら怒られそうな話をしているこまちと勝利。ふたりに悪気はない。


「ねえ、こまち」


 ため息をついてから、お嬢様はこまちに呼びかける。お嬢様にとってのアポストロフィーは、能力を持つ自分を捜し続けている恐怖の存在であり、話題を変えたかった。アポストロフィーの所在地は気になるところではあるが、代表の容姿には興味がない。


「どうしたの、イーグレットちゃん」

「さっきの電話、どうだった? 面接希望者、本当に大学生だった?」

「ああ、その話ね」


 こまちが再び、求人サイトの管理画面を開く。知川ともかわ朱未あけみの情報を画面に表示させた。


「ちゃーんと揚羽大の薬学部にいたわよ。休学中だけど。ただ……」

「ただ?」

「よく言えば研究熱心、悪く言えば問題児、かしらね? 入学前から、研究室に忍び込んで、勝手に設備を使っていたんだって。わたしも知っている教授が、薬剤が少しずつ減っていることに気がついて、犯行がバレた、とか」

「それって、危なくない? 薬学部ってことは、皮膚がとけちゃったり、毒ガスが発生したりする怖い薬品も置いてありますよね? 単体では問題なくても、組み合わせると爆発するなんてのも」

「ひょっとすると、退学にさせられる前に、自分で休学したんじゃないか、って、学生課の人も話していたわ」


 勝利もこまちも、腕を組んで考え込む。さて、この青年を雇っていいものか。


「面接に、タクトも同席するのよね?」


 お嬢様が口を開いた。このふたりで決めるのには不安がある。


「もちろん。仮面バトラー事業部の責任者は、タクトだもの。これから面接の候補日を送らないといけないのだけど、いつならいいかって、タクトの返事待ち」


 こまちが携帯電話の画面を見せた。返事は届いていない。


『研究室で、いったい何をしていたんじゃろうな』

「研究じゃない?」

『たわけ。研究対象が何であったか、じゃよ。教授の恩情で見逃してもらったようじゃが、本来は警察に捕まっていてもおかしくない』

「たしかに……侵入して、他人のものを無断で使っているし……わざわざリスクをおかしてまで、何をしたかったんだろう?」

『本人に聞くしかないかの』


 こんこん、と扉をノックする音がする。こまちは管理画面を閉じた。時計を見る。


「広報部の鷺ノ宮さぎのみやでーっす!」

「はーい! 少々お待ちをー!」


 来た。勝利はフォワードベルトを起動させて、サムライブルーの執事バトラー・仮面バトラーフォワードに変身する。フォワードに姿が変わったのを確認してから、こまちが扉を開けた。


「どうもー! あっ! どうもどうも! どうもでーす!」


 朱未の持っていたものとはまた違う、大きなカメラを首からさげている。頭にバンダナを巻き、もう一種類、カメラを腰にくくりつけていた。


「あなたが仮面バトラーフォワードでいらっしゃいます?」

「はい!」

「おほーっ! いいお返事でーすねー!」

「よろしくお願いします!」


 勝利と鷺ノ宮は初対面ではない。社員証を作成する際に、写真を撮られている。


「鷺ノ宮くん。かっこよく撮ってよ?」

「あいあいさ! 背景はどうしますー?」

「仮面バトラー事業部としての写真だから、ここで撮りましょうか」


 お嬢様は写真に写り込まないように、自分の私物を隅に寄せた。ゴートも執事服を着たひつじのぬいぐるみのふりをして、ソファーに座る。


「まずは一枚!」

「はい!」

「おっ、いいねー! 次は、腕を組んでみよう!」

「はい!」

「強そう! あっ、そのポーズも最高!」


 さっそく撮影が始まった。カメラマンの指示に従い、さまざまなポーズをとる。


「ついでに、鶴見さんも撮っておかないかい?」

「わたしも?」

「社員証の写真、入社時のままでしょー? いい機会だから、新調しちゃおう!」

「あっ、じゃあ、ちょっと待って。化粧直すから!」



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