第14話 Aパート

 紋黄もんき町の『COMMAコンマ』に仮面バトラー事業部が発足し、一週間。求人サイトを経由し、一件の応募がある。


「来たああああ!」

「……何が来たのよ」


 歓声を上げる鶴見つるみこまちに、読んでいたマンガから顔を上げて不愉快そうな表情になるお嬢様。


「新メンバー候補っ」


 応募があると、求人サイトからメールが届く仕組みだ。希望者が入力した簡単なプロフィールと職歴を、募集側は求人サイトの管理ページから確認し、条件と合いそうならば面接の候補日をいくつか指定して、メッセージを送る。


「おお! ボクの後輩、ってことですよね?」

『こらこら。まだ雇うと決めたわけではないじゃろ?』


 本日の勝利は、小灰しじみ町の『Quoteクオート』の支社には行かずに、仮面バトラー事業部で待機している。このあとの仕事は写真撮影だ。コンマの公式サイトにある仮面バトラー事業部の紹介ページに掲載するための写真であり、広報部の社員が午後に来ることになっている。


「そうよ勝利くん。わたしたち、仮面バトラー事業部は、打倒『apostropheアポストロフィー』に燃える有志を集めないといけないんだから」


 そう語りながら、管理ページを開いて、唯一の希望者をクリックした。紋黄町といえば、この国で初めて怪人アイコンが現れた場所として有名となってしまっている。先日のテシガワラ遊園地の怪人騒ぎもあいまって、勤務地が『紋黄町』となると避けられてしまうのだろう。


「あー!」

『こやつは!』


 こまちの肩越しに、画面に表示された個人情報に注目する。勝利とゴートがほぼ同時に反応した。


「なになに、知り合い?」

「はい! この前、ハリネズミ型怪人と戦ったときに会いました! 学生証を見せてもらったので、名前も顔も、この人で間違いないです!」

「ふーん……あっ、揚羽あげは大!?」

「こまっちゃんも知り合い?」

「わたしの後輩かぁ、って」


 知川ともかわ朱未あけみ。仮面バトラーのファンを名乗っていた青年。


『わしは……こやつのことを、信じられん』


 難色を示すゴート。こまちはページをスクロールして、経歴を確認する。職歴は空欄になっていた。


「えぇ、どうして? この前もそんなこと言ってたよね」

『どうしてと聞かれると、うーむ。ひょっとしたら、身分を偽っているのではないかな』

「学生証を偽造しているってこと? ……そんなことして、どうするのさ。バレたら大変だよ?」

「それなら、わたしが学生課のほうに確認してみようかな。せっかく応募してきてくれたのだし、できれば、疑いたくはないのだけど、念には念をね」

『すまぬ。わしの杞憂ならいいんじゃが』


 こまちは携帯電話を片手に席を離れる。代わりに、お嬢様がマンガにしおりを挟んで、こまちのデスクに近付いてきた。


「この人、いくつ?」


 写真を一目見て、朱未の年齢を気にしている。勝利は本人と直接会っているが、写真でもかなり若く見えた。


「ボクの一個上か……ぜんぜんそうは見えない……」

「一度会ってみたいわ」

「えっ」


 お嬢様が他人に興味を示している。聞き間違いかと思って、勝利はお嬢様の顔を見た。


「何?」

「なんか、ちょっと妬けるかも」

「勘違いしないでよね。私たちの『仮面バトラー』に積極的に関わろうとしている人間が、どのような人物なのかが気になるだけよ」

「そっか」

「貴方は私の執事バトラーでしょう。貴方も勘違いしないように」

「それは、もちろん。ボクは仮面バトラーフォワードとして、お嬢様をお守りするのが使命ですからね」


 *


 一方、クオート支社内。リベロ部隊チームの待機所。


「……なるほどなあ」


 鷲崎わしざきタクトは、スクリーンに映し出された映像を見て、腕を組み直す。リベロ部隊の一人、鳩山はとやまが撮影したものだ。


「この映像と、望月の証言。このふたつから、アポストロフィーの生み出す怪人アイコンは『人間が変化したもの』と断定」


 リベロ部隊のリーダー格、下鴨しもがも平次へいじがまとめた。情報が一つであれば、たまたまかもしれない。二つ揃えば、精度は上がる。道理で怪人の出現場所がバラバラなわけだ。


「ということだけど、どうする? 指揮者コンダクター


 鳶田とびた夜長よながは頬杖をついている。この場にいるのは、タクト、夜長、平次、そして、勝風の四名。


「先にヨナガの意見を聞こうかなあ?」

「タクトなら、わざわざ聞かなくとも、わたくしの意見などお見通しでしょう?」

「せいかいっ!」


 夜長は子どものような笑顔になって、大きく手を叩く。タクトと夜長は、同じ青雲学園大学音楽科の卒業生である。学生時代には成績を競い合った仲間だ。があって、お互いに音楽家の道は歩まず、タクトは祖父の持つコンマへ、夜長はクオートに入社した。


「ショーブはどうなん?」

「同じだ」

「せやろな。ショーブは、怪人にやり返したいんやもんね」

「ああ。クモ型怪人を倒し、アポストロフィーを潰す!」

「威勢がええなあ。……リベロヴァルカンは、まだ渡せんけど」


 タクトの言葉に、拳をぐっと強く握る勝風。勝利の許可が下りるまで、つまり、リベロヴァルカンの改修が終わらなければ、勝風は戦えない。


「この話、ショーリにはしたんか?」

「していない」

「さよか」

「アイツのことは、兄のオレがいちばんよくわかっている。怪人が人間だと知ったら、アイツは戦わなくなるだろう」

「ウチからショーリに話すのは、ええの?」

「戦う気力をなくさないよう、うまく話せるのならな」

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