第8話 Bパート

 場所を移動して『Quoteクオート』社屋内にある訓練場。怪人アイコンはフォワードが退治したため、仮面バトラーリベロの装着者として選ばれた七人は持ち場に戻り、勝風しょうぶのみが残った。


「変身ッ!」


 勝風はリベロヴァルカンを用いて、黒の仮面バトラー・仮面バトラーリベロに変身してみせる。開発者の鳶田とびた夜長よなががリベロの腰に装備されている銃弾のうちのひとつをつまみ上げた。


「リベロは『これまでに地球上で発見された怪人の戦闘データ』を解析して、武器にしています。この銃弾は、あなたたちの仇敵ともいえる紋黄町もんきちょうのショッピングモールに出現した“クモ型怪人”から生み出しました」

「とうさんの……」


 クモ型怪人。Xデイに現れ、望月兄弟の父親・望月大貴の命を奪った。


「いずれ倒さないとあかん敵やな」


 赤い仮面バトラーの旋律メロディーが通らなかったため、クモ型怪人は倒せていない。その当時は、勝利は高校三年生である。フォワードベルトを手にしていない。まだ仮面バトラーシステムバージョン4は完成していなかった。


「ボクたちが気になっているのは、仮面バトラーリベロの変身システムです。仮面バトラーシステムバージョン4では、シンボリックエナジーを消費するから、ボクが適合していたと聞いています」

『リベロもシンボリックエナジーを消費して変身するのであれば、ショーブ含めて、彼奴あやつらは寿命を縮めておるのじゃよ。ワシらとしては看過できん』


 シンボリックエナジーは、誰しもが持っている生命エネルギーの一種。だが、持っているシンボリックエナジーの量には個体差があり、シンボリックエナジーを使い果たせば死につながる。


「オレは、かまわない。とうさんのように、人々の命を守れるのなら」


 勝風の言葉で、夜長はリベロの変身システムに対する疑問の解答とした。勝風が持ち込んだ仮面バトラーシステムバージョン4のデータによって、リベロヴァルカンの動力源は確保されている。


「ボクは兄貴がいなくなったら、イヤだよ。ちっとも帰ってこないから、かあさんだって心配している」

「かあさんが?」

「そうだよ。兄貴が『COMMAコンマ』にいた頃からずっとだよ。たまにしか帰ってこなかったじゃない。それが、最近はずっと帰ってこないんだから……だから、帰ろう?」


 リベロの仮面に隠されて、勝風の表情は見えない。弟の言葉には、動揺している。


「帰ろうといえば、ウチのお嬢様はどこにおるんよ。ウチのお嬢様も、基地ベースに帰らせてもらえんかな」


 小灰町しじみちょうの『Quoteクオート』まで車を走らせてきたのは、リベロの変身システムの話を聞くため、だけではない。てしがわら遊園地で勝風が連れ去った紋黄町もんきちょうのお嬢様を取り戻すためでもある。


「麗しの彼女は、リベロヴァルカンのさらなる強化のため、しばらくお借りしたい所存でありますが」

「ウチのお嬢様を『モノ』みたいに扱わんといてくれる? 貸さへんよ」

「揚げたてのポテトをたらふく食べて、ご満悦でしたよ?」


 胃袋を掴まれている。あのつっけんどんな態度をとるお嬢様が懐柔されていた。


「……またあの子は」

「しなしなのポテトには戻れないそうです。日頃の食生活が問われますねえ」


 お嬢様の食事は、身の安全のために外出できないので、店屋物ばかりだ。特に、ファストフードのデリバリーサービスをお気に召している。スマホから注文し、コンマの正面玄関に届けてもらう。届いたもののお代をタクトが支払って、基地まで運んでいた。


『ワシらは、お嬢様の【復元】で怪人の情報を消したい』

「我が社としては、怪人には……いてほしいというのはおかしいですが、出現した記録は残しておいてもらったほうが、リベロヴァルカンが売り込みやすくなりますですね」

『うむ。そうじゃろうな。コンマとクオート、ここで意見が食い違うんじゃ』

「あとひとつ。ウチとしては、大切な命を削りながら戦ってほしくないんやけども、ヨナガはどう思ってるん?」


 クオートに乗り込む前にもこの話はあった。勝利を仮面バトラーフォワードとして怪人との戦闘に送り込んでいる身ではあるが、タクトはタクトなりの考えがあって、フォワードベルトを作り上げている。


「多くの命を救うために、多少の犠牲はつきものでして」


 夜長は、仮面バトラーリベロの右肩に手を置いた。多少の犠牲。


「その『多少の犠牲』に、兄貴を入れないでくださいよ」


 拳が震える。夜長のセリフで、勝利は自身をコントロールできなくなってしまった。


「ボクが一人で戦うのではなく、リベロがいっしょに戦ってくれて、二人で戦えるっていうのは心強いなって、さっきまで思ってた。けれども、違う。ボクの兄貴は、一人しかいない。とうさんだって、一人しかいなかった。また、……また、つらい思いをしたくない! ボクが、ボクがフォワードとして戦えばいい! そうでしょう!?」

「勝利! オレは、勝利だけに人類の命運を背負わせたくない! オレも戦う、だから、リベロの力を手に入れたんだ! オレは、オレの意志で『仮面バトラーリベロ』になっている! デメリットも承知の上でだ!」

「兄貴は何もわかってないよ」


 勝利はフォワードボールを取り出した。フォワードベルトに、そのボールをかざす。


「変身」


 サムライブルーの執事バトラー・仮面バトラーフォワードに変身した。ボールを剣に変形させる。


「ゴートさんの言うとおり、そのリベロヴァルカンを破壊する。七丁すべてのリベロヴァルカンを破壊すれば、もう誰も仮面バトラーリベロには変身できない」

「やれるものなら……!」

「仮面バトラーは、フォワードボクだけで十分だ!」

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