第4話 Aパート
「しーっ」
休日。
「出かけよう」
「はい?」
カジュアルな服装の勝利に対して、お嬢様は普段着もゴシックドレスであるようだ。
「キミのこと、もっと知りたいんだ」
そう言って手首を掴む勝利と、掴まれた手首をくるっと一回転させてほどくお嬢様。
「ゴートは何をやっているのよ……」
お嬢様は高い位置でツインテールに結ばれている頭をかく。ゴートは勝利のコーチであり、仮面バトラーとしての力を無闇に使わないように監視もしているはずだった。勝利の仕事が休みであっても、ゴートは休みではない。
「ゴートさんなら、ここに」
勝利は肩掛けのエナメルバッグを叩いた。バッグの中にゴートが入っている。お嬢様は呆れたようにため息をついた。
仮面バトラーフォワードとして戦い始めてから日が浅く、バッファロー型
「今日のことを相談したら、反対されちゃって」
「当たり前じゃない。わたしは『apostrophe』から狙われているのよ?」
「だからって、こんな場所で閉じこもっていていいわけがない」
「はあ……」
「大丈夫。ボクは執事として、お嬢様をお守りします。怪人が出てきたら、フォワードに変身して戦います」
勝利が差し出した手を、お嬢様は握り返した。しぶしぶ、といった表情を浮かべている。
内心、嬉しかったのだ。
お嬢様自身も、理解してはいた。基地にさえいれば、敵に見つからずに日々を安全に過ごせる。
お嬢様が外出するときは、怪人が出現した時のみ。怪人の出現場所に車で急行して、お嬢様の【復元】を用いて元通りにする。作業が終わればすぐに基地に帰っていた。
「ここは、
だから、紋黄町に住んでいながら、紋黄町のことはよく知らない。地理情報は基地にある地図から見て取れる情報と、ネットのウワサのみ。勝利に導かれるままに、シャッターが閉まったままの店の前を通っていく。
人々の記憶は、怪人が出現する前の状態へと戻す。なので、人々の記憶の中だと紋黄町に怪人が出現したのはクモ型怪人がショッピングモールに出現した“Xデイ”だけとなっていた。何も知らない人々からすると、紋黄町は怪人から襲われることの少ない安全な街なのである。
「あらあらまあまあ、イケメンが歩いているわねえ!」
地元を歩いていれば、知り合いにも出くわす。向かいからすーっと走ってきた自転車が、勝利を発見して停まった。
「肉屋のおばちゃん! ひさしぶりい!」
高校からの帰り道に兄と寄っていた精肉店の
「お隣のかわいいおねえさんは、彼女さん?」
「いいえ。違うわ」
勝利が何か言う前に、お嬢様は否定した。さらに、一歩ぶん距離を取られてしまう。
「あら、そーお? ごめんなさいねえ」
「用がないのなら、これで」
一礼して離れていくお嬢様と「えっ、ちょっと!」と止めようとする勝利。勝利としては、精肉店での二言三言の会話でしか交流がなかったとはいえ、無事を知れば喜ばしいので、近況をしゃべりたくて仕方ない。
「何?」
「おばさんと立ち話したくて」
「平和ボケには付き合っていられないわ」
「待って待って! ……おばさん、またね!」
*
「じゃじゃーん、てしがわら、到着!」
「てしがわら遊園地……ここが……」
「来るのは、初めて?」
「そ、そんなことないわよ! 動画やブログやテレビで見ているから、何度も行ったようなものだわ!」
「ということは、来たことないんだ」
「……そうよ。悪い?」
紋黄町と
紋黄町や小灰町に住んでいる小学生ならば、行ったことのない子どもはいない。小学校の六年間で一度は遠足で訪れるだろう。もしくは、親が連れてくる。そんな場所だ。
「まずは、ジェットコースター!」
「きゃあああああああ!」
「次に、おばけやしき!」
「ちょ、ちょっと! 手を離さないでよ! わたしの執事でしょう!?」
「からの、フリーフォール!」
「落ちる、落ちる!」
「まだまだ行くよ!」
「……お待ちになって」
「なら、メリーゴーランドに乗る?」
「休憩させてほしいの」
「そっか。あのお店でいいかな?」
「ええ」
「何か食べたいものはある?」
「……あれ」
お嬢様は店舗の入り口に置かれているソフトクリームのオブジェを指さす。
「ああ。かしこまりました。どこか、テキトーな席に座って待っていて」
「ソフトクリームは食べたことあるわよ」
「……何も言ってないけど?」
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