第3話 Bパート
コンマのライバル会社は、紋黄町に隣接する
「紋黄町は、コンマの第二営業部のテリトリーだってのに。あいつらったらお構いなしなのよ。だから、早く動かなきゃ」
「なるほどです」
最小限の手荷物を携えて、こまちと勝利、そしてゴートはコンマを出発するべく、エレベーターに乗り込んだ。慌ただしいが、先輩にはついていかねばならない。
「げっ」
エレベーターが一階に到着し、扉が開くなり、こまちは『閉じる』ボタンを連打した。急いでいるはずなのに、相反する行動をとっている。
「こまっちゃん、その『げっ』って言うのはよくないんやないの?」
勝利やゴートが口を挟む前に、エレベーターに乗り込もうとしている男が口を開いた。この男の名前を、勝利は知っている。ゴートももちろん既知の人物であるので『おお、タクト!』と嬉しそうな声を出した。
「なんや。ショーリにゴートもいっしょかあ」
「ボク、第二営業部になりまして」
「ははーん。そんで、こまっちゃんに連れ出されそうになってんの」
「何よ。大事なことじゃない。副社長さんは邪魔しないでくれます?」
勝利の右腕を引っ張ってエレベーターから降りるこまち。無理矢理引き離されそうになって、勝利の左腕を掴むタクト。
「ショーリはウチのエースストライカーやけん。わかっとるよな?」
業務中だろうと怪人が出現したら怪人との戦闘を優先しなくてはならない、と暗に伝えている。怪人は仮面バトラーの都合のいい時だけ出てくれる、とは限らないのである。この一週間は音沙汰がなかったものの、いつどこに出現するかは予想できない。
「はい。わかってはいます」
ただし、勝利が仮面バトラーフォワードであることは知られていない。だから、この一言にこまちは首を傾げた。
「あなた、副社長さんと知り合い?」
「えっと……」
どうごまかすかの助け船をタクトに求め、視線を向ける。タクトは「こまっちゃんもショーブのことは知っとるやろ?」と答えてくれた。
「はいはい。家族ぐるみの付き合いってわけね?」
「せやせや」
一週間前のやりとりが初めての出会いであったので、タクトはウソをついていることになる。が、ここで否定してもややこしくなってしまう。空気を察して、勝利は愛想笑いを浮かべてタクトに同調した。
「まったく、あの子はどこに行ったのかしら。しばらく見ないけども、弟は知らないの?」
兄の行方を訊ねられる。弟の勝利も、兄の行方は知らない。首を横に振った。
「怪人が出るようになってから、兄貴はなかなか帰ってこなくなって」
「第二営業部にも来なくなったのよ。出社の記録はあるから、来てはいるのに、どこにいるんだか。最近は出社もしていないようね?」
勝利はタクトの顔をまた盗み見る。おそらくは、
「まあいいわ。弟くんには期待しているから」
「あっ、はい。頑張ります!」
と、元気に返事をしたところで、ベルトからホイッスルの音が鳴り響く。怪人の出現の合図だ。タイミングが悪い。
「何、この音」
こまちは眉間にしわを寄せる。間髪入れずに、タクトが「ショーリはサッカーが好きやけん。着信音やな」とフォローした。
『ショーリ、どこか身を隠せる場所はないかの?』
ゴートに耳打ちされて「えっ、ええ、えっと、じゃあ、トイレ! トイレに行ってきます!」と、こまちの返事を待たずに、男子トイレの個室へと駆け込む。仮面バトラーは正体を隠さねばならないのに、これからお世話になる予定の先輩の目の前で変身はできない。
「どうするのさ! 怪人は倒さなくちゃいけないし、でも初日から先輩に怒られたくないし!」
個室で大きな声を出してまくし立ててしまい、ゴートから『落ち着きたまえ』となだめられる。今まさに出かけなければならない場面で、落ち着いてはいられない。
「無理だよ! こんなの、ボクが分身しないと解決できない!」
『できる。ワシはスケープゴートじゃからな』
ゴートが勝利の右手を掴んで、自らの鼻の部分を押させる。すると、ゴートの形が変わっていき、目の前に“望月勝利”が現れた。シンボリックエナジーの応用である。
「このようにな」
自分のそっくりさんが口角を上げた。頭のてっぺんからつま先まで、まるっとコピーされている。
「すごい! じゃあ、ボクが挨拶回りに」
「変身はできんぞ」
「はい……」
軽い冗談で言ったつもりが、ゴートからは真剣なトーンで返されてしまった。そっくりさんになれたとしても、変身はできない。仮面バトラーフォワードの変身ベルトは勝利のものである。
勝利はベルトの留め具部分にボールをかざして、小さく「変身」とつぶやく。望月勝利の姿からサムライブルーの執事・仮面バトラーフォワードへと変わった。
「任せたぞい」
「ゴートさんも、あとでどうだったか聞かせてね」
*
ベルトのボタンを押して瞬間移動する。今回は、閑静な住宅地エリアだ。公道のど真ん中にバッファロー型の怪人が仁王立ちし、宅配業者のトラックを「ぶも!」の一声と正拳突きで押し返した。
「うわあっ!」
「おっと!」
運転席から逃げ出そうとするドライバーと、その怪人との間に立つ。ドライバーは仮面バトラーの姿を見て「変なのがもう一人!」と悲鳴混じりのセリフを吐いた。
「変なのとは失礼な。ボクは、あの怪人を倒しに来ました。今のうちに逃げてください」
「お、おお! わかった!」
避難していくのを見届けてから、勝利はベルトから小さなサッカーボールを射出する。そのボールを拾い上げて、この一週間の間にゴートから教わった通りにコマンドを入力した。ボールが
「キックオフだ!」
剣を構えて、相手のゴールを探す。怪人は両手を地について、四足歩行の体勢になった。
「ぶもおおおおおおおおおお!」
そのしっぽをムチのように振り回しつつ、フォワードに向かって突進してくる。フォワードは闘牛士のように、その突進をひらりとかわした。
「どこだ……あいつのゴール……!」
怪人はUターンしてもう一度フォワードに迫ってくる。ゴールを見つけなくては、怪人を倒すことはできない。
「本当に騒がしいわね」
「まあまあ。ショーリもデビューして二戦目やから、大目に見たってーな」
離れた位置から、双眼鏡で戦局を見守るお嬢様。と、その隣に立ち、日傘を差すタクト。
「フォワードには、強くなってもらわないと」
「随時、強化アイテムは開発していくで。堪忍してや」
すまなそうな顔をするタクトを見やってから、お嬢様はフリル袖をまくりあげた。フォワードの戦いの手助けを試みるとする。
「ぶも!? こっ、これは!?」
しかし、お嬢様による戦闘への介入は準備の段階で終わった。怪人に対して、ネットが投げつけられる。フォワードが仕掛けた攻撃ではない。怪人はネットにより身動きが取れなくなった。
「誰だかわからないけど、ありがとう! おかげでゴールが見つかった!」
フォワードは第三者による救援に感謝の言葉を述べてから、強化された跳躍力で跳び上がり、怪人の背中にあるゴールにボール剣を突き立てる。シンボリックエナジーを直接注入されて、バッファロー型怪人は爆散した。
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