第10話 仲間⑵

「とにかく、だ。今日のところはこれから街に繰り出してもらう。それもだな、俺らには行きつけの道具屋があってだな。そこで武器を調達しにゃならねぇんだ。で、てめぇらにも護身用に手に馴染む武器でも持ってもらっていた方がいいと思ってな」

「あの武器商人とこ行くんですかい?あそかぁ苦手でェ。俺ァ有給使わせてもらいやすぜ」


 武器商人って…、えらく物騒な物言いだな。そんな人のとこにうちはともかく、クロネを連れて行って大丈夫だろうか?なんかコロッと騙されたりするんじゃないだろうか?


「あの、そこって何か問題が?」

「ちぃと胡散臭いだけだ。そこまで悪いやつじゃねぇんだろうがな」

「それが嫌いなんでェ。ミシロならともかく、クロネァ騙されかねねェでさァ」

「騙されないよー」

「それに、こいつァもう武器を持ってるようでさァ」


 カインさんは、クロネの携えているチャージピッケルを指さした。


「これ、武器?」

「なにいってんでェ、人を殺すことが出来んならそれは武器でェ。例えば、これを使ってアデルさんぶん殴りゃ楽に殺せんでさァ」

「てめぇいい加減にしやがれよ。それとあともう一つ任務がある」

「任務、ですか?」


 うちの質問に、コクリとアデルさんが頷く。


「それが、聖杯の仕組みを調べろってんだ。正確には…これだな」


 アデルさんは、腰掛けカバンから白い粉のようなものを取りだした。なんだろうか、これ。


「こいつァ水に混ぜると血液で色が変わるらしい。普段は水に溶けると透明なんだが。俺らの部下でも試した。するとだな…、ある一定数の奴らは赤に、それ以外の奴らは黒に変わったんだ」

「それって!」

「あぁ、聖杯の仕組みの核はこれだと俺は睨んでいる。ついでに言うと、これはケツエキガタっつぅ人間の血の種類によって反応が違うらしい。それは一生変わることはねぇんだとさ」

「でも私、一回目は赤だったよー?」


 た、たしかに。クロネは奈落送りにはなったけど、それまで普通に貴族として暮らしてた。ならなぜ、いきなり奈落送りに?アデルさんの話では、ケツエキガタは変わらないって…。


「そんなのいくらでも偽造できんぜェ。大方その薬品をこれとすり替えたんでさァ」

「これは…」


 見た目は見分けがつかないほど似てる。真っ白の粉。でも、カインさんの言い方じゃこれは違うんだろう。


「血液に反応して赤く染る薬品でェ。黒に染ることはないでさァ。大方、どうでもいいやつを儀式する時にアデルさんの、まだ利用価値のある奴らには俺のを混ぜ込んだろィ。ついでにもうひとつ。気に入らないやつのための黒だけに染る薬品もあるぜェ」

「そんな、つまり…!」

「聖杯の儀ってのは、俺らァてっきり神やらスピリチュアルななんかが決めることだと割り切っていたが、それァお門違いだった。あれにゃ、裏で糸を引いてうすら笑ってる奴がいやがる」


 アデルさんは、ギリッと歯をかみ締めた。うちと同じだ。うちだって、そいつが許せない。


「ようやくとっ捕まえた尻尾でェ。逃がす訳にゃ行かねェでさァ」


 グッと、カインさんが拳を握る。その目は、覚悟を決めたそれだった。先程までの、どこかやる気のない目とは一転し、瞳孔が開きかけている。


「とにかくだ。まずは武器の調達…と言っても俺の剣の買い替えと、こいつの武器の購入。それから薬品工場の潜入調査。お前ら二人は工場街の入口で待っとけ」

「ほーい!」

「了解でさァ」


 うちは、クロネの手を握って、言い聞かせた。


「いい?この人に斬られそうになったら、チャージピッケルで思いっきりぶっ飛ばすか、全力で逃げなさい」

「…うん?」


 若干分かっていないようだが、多分大丈夫だろう。この人には気をつけろってことだけわかってくれてたらいい。だって明らかに危険だもん。アデルさんにいきなり斬りかかってたし。


「安心してくれィ、俺が斬るのは異形と食材とアデルさんだけでさァ」

「んな事言ってるから信頼が無くなるんだろうが!…ったく、行くぞ」

「はい!」


 かくして、うちらの国家転覆は始まった。脱走とは程遠いが、着実に歯車は進んでいると、確信している。

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