第7話 仲間⑵
「でっかー!」
「こっち飛んでくるわよ!」
ドンと地響きが鳴り、巨大な口を開きながらこちらに突進してくる!
明らかにうちらより足が速い。このままじゃ追いつかれちゃう!
というか、こいつがいるから兵隊たちは追ってこなかったのか!
「クロネ!異質は?」
「あと一回使えるかもー!」
「なら、あんた一回下の段に降りなさい!」
「ミシロは……?」
「うちは、これで逃げるから、後ろからワニの頭目掛けてチャージピッケルで殴って!」
このトロッコは、確かお母さんがうちを逃がしてくれた時に使ったのと同じ一人用のもの。
そろそろレールが始まると思ってたんだ!下水道の清掃員のために作られたものらしいが。
「分かった!」
クロネは手すりを飛び越えて、一段下の道に降りた。
その後、ガコンとレバーを下げて、トロッコを走らせる!
「グギャアアアア!」
「うっさいわねぇ……」
この鳴き声、反響して爆音になって爆発音のような音に聞こえる。
その時、頭が割れるように痛んだ。
母さんがうちを逃がしてくれた後に聞こえた、爆発音……。
もしかして……。
「うぅ……!」
目眩がして、頭を抱える。あの時、兵隊たちが追ってこれなかった理由は…。
頭痛を我慢して、目を開けると、そこには大口を開けた大ワニが!
「ミシロにぃ……!」
真っ白の髪がライターの光に照らされ、真っ赤に燃える。くるくると回転しながら、チャージピッケルをワニの脳天に振り下ろす!
「近寄るなぁ!」
ベギベギ!と、轟音を立ててワニの頭蓋と歯が砕けていく。その時気がついた。砕け散った歯に、布切れが挟まっていたのが見えたのだ。
ボロボロの赤色の布には、数字が書かれていた。
奈落送りになった人々は、番号が振られる。そして、人間としての名前は呼ばれなくなるのだ。
それを手に取り、目をやる。ヨダレと血が混ざりあったような粘液が付着しているが、番号は見て取れた。
1025741……。
ぐー、と伸びをしながら、クロネはワニを踏み越えて歩いてきた。
「どうしたの?辛いことでもあった?」
優しく、クロネがうちの頭を撫でる。ふんわりと、優しい匂いが鼻腔をくすぐった。
昔、母さんもよくこんなふうに慰めてくれたっけ。
「これ、母さんの……」
一筋の涙が、頬を伝う。少し淡い期待していた、それは砕け散ってしまった。母さんは、もうこの世には……。
いや、もしかしたら、この国からの脱出を目指してる時点で、どこか諦めていたのかもしれない。
「あぁ!ミシロ!」
「……へ?」
正面を見ると、ワニがまだ歯の抜けたばかりの大口を開けて突進してきた!
まだこのワニ生きてたのか!さっきのは脳震盪を起こしただけが!
その時だ。ワニが勢いよく天井に舞い上がった!そして、天井にあたって下に落ちてくる。
な、何が起こったんだ?
真っ赤に晴れた目で、クロネのことを見つめた。クロネも唖然としている。クロネの異形の力でもないのか。
「……任務完了、目標は完全に沈黙。回収作業お願いします」
カツカツと、足音と話し声が聞こえてくる。声質は、若いながらも落ち着いた声。冷淡な話し方なのに、どこか温かみを感じる。
現れたのは、うちらより少し年上らしき、トランシーバーを持っている女性。二十代くらいだろうか。
通話を切ったらしく、トランシーバーを口元から離し、こちらをじろりと眺める。
この人、なんかやばい。一歩後退りすると、女性はふぅっとため息を着く。
「あなた達、指名手配されている奈落送りと蘇りですね?同行してもらいます」
また一歩。また一歩と少しずつ女性から距離を置く。
「えへへ、お構いなく……」
背後からザァーと音が聞こえた。振り返ると、水の壁が!それがうちら三人を取り巻くように広がる。さながら水の檻だ。まさか、この人も異質を持ってるのか!?
「逃げられると思わないことです」
そんな……、母さんが救ってくれたのに、また落ちるのか……?
それに、あそこにはもう……。
「それと、何も取って食おうなんて思ってないですよ。ただ協力してもらうだけです」
「協力……?」
「そう、交換条件もあります」
交換条件か。うちらにもメリットがあるってことか。
話だけでも、聞いてみようかな。
「交換条件って?」
「ミシロ……!」
「話だけでも聞いてみようって思ってね」
また、ため息をついて女性は話し出す。どこか気だるい雰囲気をまとってるな。
「私の名前はルーミ・クドルノア。水の使いで、王国騎士団、二十五部隊副長をしてます」
「騎士団……!」
やはり、うちらを突き出すつもりか……?
一歩下がるが、水の壁に阻まれていることを思い出し、諦める。
「最後まで聞いてください。あなた達には、私たちの隊長を救ってもらいたいのです。あなた達にも面識がある人ですよ」
「それって……?」
「クラディール・フォン・アストライア隊長です」
「お父さん!?」
マジか。つまりこの人は、奈落送りになるクラディールさんを助けたい……と。
でも、ただ助けるだけじゃダメだよな。顔は広いっぽいし。その顔の広さが仇になってるんだ。
「まさか……」
「そう、国家転覆ですよ」
やっぱり……。サラリととんでもないこと言い出すな。
クロネは、「国家転覆!?」と口に手を当てて唖然としている。
「とりあえず、ここから出ましょうか」
確かに、臭いが服に着くとやだな。それに、クロネのヨダレも大量に着いちゃったし、洗濯しないと。
「近いうちに、回収班がたどり着きますし」
と、ルーミさんは続けた。鉢合わせになればたしかに面倒だ。
話によると、うちらは指名手配されてるらしい。
ルーミさんに続いて、歩き出す。一歩、踏み出した。
その一歩が、自由への一歩になることを願って。
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