第6話 仲間⑴

 これは、一年ほど前のこと。


 うちは靴磨きをしている……、いや、靴磨きをさせてくれる人を声を掛けながら待っていると、少女と母親の親子がやってきた。


 楽しそうに、笑い声を上げながら、うちの前に通り過ぎていく。少し羨ましさを感じるものの、少女の屈託のない笑顔を見ていると、こちらまで笑顔になってしまう。


「靴砂まみれだー」


 女の子が、笑いながら靴を眺めた。確かに、靴が砂まみれだ。こんな砂漠のど真ん中じゃ、すぐに砂まみれになるんだ。


「そうね、磨いてもらいましょうか」


「うん!」


 すると、女の子がこちらにとてとてと走ってくる。どうやら今日のお客さんは彼女のようだ。


「靴磨いてくださいなー!」


「えぇ、喜んで」


 その子は、アリシアと名乗った。アリシアはとてもおしゃべりで、沢山言葉を交わした。妹がいると、毎日こんなに楽しいのだろうか。


「はい、終わったわよ」


「わーい!ありがとうお姉ちゃんー」


 むぎゅうっと、アリシアがうちに抱きつく。ふんわりと幼い香りが鼻腔をくすぐった。


「あ、お代ね。これで足りるかしら……?」


「結構ですよ。これからもどうぞご贔屓に」


「そうなの?ありがとうね」


 これから、また来てくれるかもしれないからな。次からはきちんと貰うけど。普段は五百デニカ貰ってるのだ。


 それより、お姉ちゃん……、お姉ちゃんかぁ。まだまだ子供だと思ってたんだけどなぁ。


 あの子にとってはうちは大人の一歩手前に見えるんだ。少なくとも、彼女よりは大人に見えてるんだろう。


「ばいばーい」


 笑顔でこちらに手を振るアリシアと、会釈をしてアリシアの手を摂る母親。うちは二人に手を振った。


 うちは目が覚めた。なんだか、最近ずっと夢見てるな。


 あの日から、うちは少しずつ大人としての意識を持ち始めた。髪を伸ばして、仕草も女の人っぽくしてみた。


 見よう見まねで、女の人っぽく振る舞ううちは、さぞかし不格好に見えてたかもしれない。それでも良かった。


 少しでも、大人に見られたい。そう願う心が、少なからず芽生えたのだ。




 うちらはまた歩き出した。クロネを起こすのは骨が折れたけど……。というか、今は昼だろうか、朝だろうか。はたまた夜だろうか。


「もっと寝たいー」


「宿借りれたらいっぱい寝させてあげるわよ」


「その前にレストラン……」


「ちゃんと覚えてるわよ」


 全く、ちゃっかりしてるな。


「ん、ここは……」


「知ってるの?」


「うん」


 ここは、確か母さんがうちを逃がしてくれた時に通った道だ。


 この看板に見覚えがある。『立ち入り禁止!』と大きく書かれていた。


 というか、なにやら音が聞こえる。


 バシャバシャと水しぶきの音。


 兵隊か……?いや、違うな。人間の足音じゃない。そもそも下水に入る人間なんていないだろう。


 どんどんと音が近づき、地響きまでしてきた。こりゃ確実に人じゃないな。ならなんだ……?


「なに?」


「あ、あれ!」


 ライターで、指さされた方向を照らす。なんだろう。巨大な何かが、下水道に潜んでいる?


 少し、白い巨大な尾のようなものが見えた。嫌な予感がする。少しお客さんから聞いたことがあるんだ。下水道に潜む巨大な白いワニの異形がいるって。


 その時、バシャーンと一際大きな水しぶきが発生した!うちらの身長を大きく上回る体長。


 やっぱり!ワニの異形だ!

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