7節 強襲

 荒れた大地に響き渡る、エンジンの音。

 黒い煙を出して走るそれらは、旧世界においては当たり前にどこでも見られたという、「車」と呼ばれる乗り物だ。その車が、何台か荒野の上を並走しており、乗っている者たちは等しく武装し、下卑た笑みを浮かべている。


 そして、その中でも一際存在感を放つ車両が一台。

 周りの車体より一際大きな車両であり、装飾がゴツく、車の上半身部分には重火器が設置されている車両。昔の世界において「装甲車」と呼ばれたその車両に乗ってるのもまた、下卑た笑みを浮かべている者たちだが、後部座席に座っている男だけは、上の空で天井のシミを数えていた。


「前回のこと考えると、絶対あいつら食糧用意できてないよな」

「ははは、言えてる。どんな声で鳴くかね」

「………」


 聞こえてきた部下たちの会話の方へ視線を向け、ため息を吐く。


「どうしました?リーダー」

「別に……何でもない」

「そうっすか。それよりリーダーも考えてくださいよ!あいつらがどんな叫び声をだすか!」


 嬉々として話す己の部下に憐みの目を向けながら、リーダーと呼ばれたその男は考えた。


(汚い会話だが、まあこんな世界じゃな。何か喋ってないと正気を保ってられないんだろう……)


 耽り、リーダーと言われたその男は、再び天井のシミを数えだす。


 明日は我が身。この世界で生きる者全員は、そのことをよく分かっている。

 ふと前を見ればお先真っ暗な現実で、平常心を保つためには、人の道を外れる必要があるのかもしれない。

 少なくとも、彼らはその選択をして平静を保っている。


「……いや、俺はいい。着いたら教えてくれ」

「ほーい」


 そう言った部下の声を聞いてから間もなくしたころ、突如、運転をしていた部下たちが騒がしい声を出し始めた。


「おいおいおいおいおいおい!何だよあれ!」

「曲がれ!曲がれ!」

(……何だ?)


 声に当てられ、もう一度視線を前に向けたところで、リーダーもを目の当たりにする。


(……炎?)


 そう、炎だ。彼らの目の前に広がっているのは、正しく赤に染め上がる真っ赤な炎。だがしかし、先一面に燃え広がっているその炎は、まるで進行を食い止める壁の様に広がっている。


(何だ?以前まではこんなもの無かったはず。一体何が―――)


 瞬間、炎の奥から飛び出てきた〝何か〟を見たのを最後に、男の視界は暗転した。



―――――――――――――――



(いいですか、フラム。進行方向に合わせて炎の壁を展開してください。そして次第に囲むように炎をぐるっと一周させたらその中に入って、後は適度に暴れてください)


 赤い少女の僅かな記憶。『奇跡』と呼ばれる少年に言われた言葉。


 「暴れろ」。それだけが、頭の中で反芻する。


「あははははははははははは!!!!!」

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」」」


 壊す、壊す、壊す、壊す、壊す。

 目に入るものを片っ端から壊し、燃やし、爆発させる。その際に響く音が、感触が、フランメの理性を蒸発させる。


「このクソカスがぁぁぁぁああああ!!」

「!」


 パン、という空気を叩き割る音と共に、一人の男が放った鉛玉が、フラムに向かって飛んでいく。 強烈な発砲音を置き去りに向かってきたその鉛玉はしかし、フラムの下へと到達するその直前、融解、蒸発して消えた。


「う……嘘だろ……」

「うーん??何をしようとしたんだ?お前」

「ひっ、ひぃぃぃいい!」


 目の前に迫った赤髪の姿に、男が恐怖に顔を歪ませる。

 その時耳に届いた声が、目に入ってく敵の顔が、恐怖に染まったその表情が、余計にフラムの加虐心を煽っていく。


「~~~~~~~~~~ッ!!!……さいっこう!!!」


 なまめかしい顔を一瞬見せた後、すぐさま元の凶悪な顔へと戻り、再び盗賊を襲い始めるフラム。

 

 その現場から数100メートル離れた地点。

 ヤコブとセクアは、立ち並ぶ岩山の上から、その様子を見ていた。


「さすがは、あの年で〝聖天騎団〟に選ばれただけのことはありますね。……ただあれだと、僕が言った”誰一人殺さないで”っていう命令を途中で忘れてしまったのでは、と不安になります」

「その時は私が止めます。ご安心を」

「―――いいや、どうやらその必要はなさそうですよ。ほら」

「!」


 ヤコブの指をさした方向を見ると、今まさにフラムが、リーダーと思わしき人物と向かい合っているのが見えた。


「さて、ここからは私たちの仕事ですね。セクア、作戦通り、燃えている車両の火を消すようお願いします」

「かしこまりました」

「では、行きましょうか」


 言って、ヤコブとセクアは、炎で囲まれた戦場へとその身を投げた。



―――――――――――――――


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