4節 悲痛な訴え
ヤコブたち3人が話を聞き始めて数十分。元々いた住人自体数えられるほどしかいなかったために、全ての人に聴き終えるのにそれほどの時間はかからなかった。
「まあ分かってたことだけど、無かったな。噂」
「そう…ですね」
先に人より聞き終えたヤコブとフラムは、入った出入口とは反対側にある、もう一つの出入り口でセクアのことを待っていた。
「あとはメガネが来るのを待つだけだけだなー」
「そうです、ね」
「……さっきから何考えてるんだ?」
「え?」
どこか上の空なヤコブに、フラムがツッコミを入れる。
「何かさっきから返事がおかしいぞ」
「あ、すみません。ただちょっと……」
「……ここを救いたいとか考えてるだろ?」
「!」
図星を突かれたあまり、ヤコブはつい驚いた表情を顔に出してしまう。そしてその様子にフラムは、ため息をつきながら口を開いた。
「さっき手分けしてる時に『何か手伝えることはないか』みたいなこと言ってたからおかしい気はしたんだよな」
「耳良いですね」
「まあな!てかここを救うなんて簡単だろ?あの木を生やす魔法みたいなのでここら全部に木を生やせばいいじゃん!」
「いや、それはできません」
「は?何で?」
我ながら頭が良いと思った考えに対し返ってきたのは、率直な否定の言葉。
「僕の魔法は万能じゃありません。あの木を生やす魔法も、実際は地面にある種や新芽を、無理やり成長させて生やしてるだけです」
「それの何が問題なんだ?」
「無理やり成長させるってことは、それだけ寿命を縮めてるってことです」
そう言うとヤコブは、再び辺りを見渡す。
「ここの土地はもう死に初めています。木を生やすことはできますが、それをすればここの土地にとどめを指すことになります。そうなっては、今は大丈夫でも数年後もっと悲惨なことになってしまいます」
「別に良くね?どうせ長く続かないだろうしさ。今やっても変わんねーよ」
「そういうわけにはいきませんよ。この様な国が、こんな状況になっても土地を捨てず独立を維持しているのは、この土地で育まれた自分たちの文化を絶やさないためです。僕たちから見たら変わらないものでも、彼らからすれば大きな違いになります」
「ふーん。よく分かんねーけど、それじゃあ諦めるしかなくねーか?」
「でも救いたいんですよぉ」
「めんどくせーなー」
「お待たせしました」
2人が話を終えたタイミングで、セクアがちょうどやってくる。
「どうでしたか?」
「申し訳ありませんが。有力な情報は何一つ得られませんでした。……ただ」
「何か?」
どこか含みを持たせるセクアの態度に、ヤコブとフラム、2人の視線がセクアに向く。
「いえ、別に大したことではないのですが……この『国』、子供と老人しかいないなと思いまして」
「「!」」
セクアに言われ、改めて辺りを見る2人。そしてセクアの言う通り、子供と大人ばかりが、この国を占めていた。
「やけに弱弱しい魔力ばかりだと思ったけど……そう言うわけか」
「何人か大人の姿も見えますが、全員男性ですね」
気づいて見れば奇妙な光景に、ヤコブの脳裏に嫌な予想が浮かび上がる。
—――すると、
「おにーさん!」
「「「?」」」
突然聞こえた方を3人が振り向けば、そこにいたのは、歳にして5、6歳ほどの涙を浮かべた少年の姿だった。
「お願いします!おかーさんを助けて下さい!」
「……?それはどういう———」
「こら!何を言っている!」
ヤコブが聞こうとしたその直後で、近くにいた老人がそれを遮る。
「すみません、旅のお方。貴方たちには関係のないことですので、早くここから去ってくだせれ———」
「嫌だ!さっきおねーさんとの話聞いてたらもん!おにーさん何か不思議な力が使えるんでしょ!?だったらおかーさんを助けてよ!!」
「こら!何を言って———」
泣きじゃくり助けを訴える少年と、それを抑えようと奮闘する老人。
目の前で繰り広げられる悲惨な光景に、確かにヤコブの魔力が高まっているのをセクアとフラムの2人は感じていた。
「……ヤコブ。アタシたちの目的は"英雄"だよな?もしここでこいつら助けてたら、それこそ人類滅亡に間に合わないかもしれないぞ」
真剣なフラムの声に、だが少年の声を聞き、そして何よりも住民の感情をその身で感じているヤコブは、それらを承知の上で返答する。
「分かってます。それでも、ここで彼らを見捨てる上で成り立つ平和なら———僕はそんなのいりません」
人類が滅んでも構わないと言って見せたヤコブの言葉を聞き、セクアとフラムの両者が答えを出すのには、少しの時間もかからなかった。
「ま、しょうがねーか!大将が言ってるんだし、付き合うしかねーな!」
「フラム……」
「もとよりヤコブ様の下した判断に異論を唱えようとは思いません。是非とも、我が力をご利用ください」
「セクア……!2人とも、ありがとうございます!」
自身の意思を尊重してくれた2人に謝意を述べ、3人はこの『国』を救うべく、目の前の住民と向き合った。
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