10節 優秀なメンバー?

「と、とにかく!今までは、僕が見た予知夢を国中に知らせていましたが、今回は違います」

「確かに、今回はいつもの放送がありませんでしたね」

「はい。それも全て、原因が分からないからこそ、国民に不必要な不安を与えないための判断です」


 現在の世界の状況は、その日を生きるのも困難と言っていいほど過酷なものとなっている。

 アルカディアにいる人々は、魔導士たちの力によって比較的豊かな生活を送れているが、それも結して永遠に続くものではない。もちろん、アルカディアにいる人々もそれは理解しており、しかし彼らは、そう言った現実から目を背けて日々を過ごしている。


 予知夢の内容を大々的の放送するのも、預言者ヤコブの力と存在を内外に知らしめ、国民の中にあるわずかな恐怖や不安を取り除くためのものだ。


 そう言った現状を理解しているのか、ヤコブの話を聞いたセクアは、静かに納得した様に頷く。


 しかし、フランメは以前として頭を悩ましている様子だ。

 

「うーん……それでも別に教えるのは良いんじゃ

ね?」

「貴様…本当に理解力が無いのか?」


 ため息をつきながら、セクアがフランメの発言を指摘する。それに多少のイラつきを見せながらも、フランメは言葉を続けた。


「だって例えばだけどさ、そのやばい未来が明日にでも突然起こったら、結局みんな混乱するじゃん。なら最初から言っといた方が良いじゃん」

「………」

「ん?何だよ」

「い、いえ……」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、まさしく今のヤコブだろう。

 今までのフランメの発言から、ヤコブは彼女に対して不真面目なイメージを持っていた。しかし今のフランメの発言は、一考するに十分な内容になっており、故にヤコブの中にある彼女のイメージとのギャップに驚きを隠せずにいた。


(冷静に考えてみれば、お義父とうさんが選んだ人なんだし、ただ強いだけの人が選ばれるわけもないか)


 彼女の意外性に、知っている幾つかの情報を頭で転がしながら、ヤコブは再び説明に戻る。


「確かにフランメの言う通り、伝えないが故に起こりうる危険性も考えられます。けれど今回の判断は、それら状況を想定した上での決断です」

「想定?」

「はい。例えば、先ほどフランメが言った次の日に起こる可能性については、まずありません」

「何でだ?」

「今回僕が見た予知夢は、過去最大規模のもの。それこそ人類が滅亡するかもしれないほどのものです。それほどの出来事が誰にも気づかれずに突然起こるなんてことは、とてもじゃないけど現実的じゃありません。同様の理由で、少なくともここ数日以内に予言の時が来る可能性は低いと考えています。もちろん、明日にでもその予兆が確認できれば、すぐに国民を避難させるよう手配しますが」


 ヤコブの言ったことに対し、「う〜ん」と腑に落ちない反応をするフランメ。一度に多くのこと言ってしまったかと心配していると、再び口を開いた。


「だとしても、教えた方が良くないか?別に不安を与えたところで、何かダメなことがあるわけじゃないだろ?」

「パスリエ帝国がいるだろう」

「「!」」


 フランメの発した言葉に、先ほどまで沈黙を貫いていたセクアが口を開く。


「教皇様ですら詳細が分からない預言。世界の現状から目を背けている国民がこのことを知れば、すぐさま恐怖に駆られ、混乱が広がり、暴動に発展する恐れも考えられる。国内がそういった分裂状況になれば、帝国は必ずその隙をついてくるだろう。そうすれば予言以前の問題だ」


 セクアの説明に口を開けて感心しているフランメ同様、ヤコブもまた、彼の説明に感心する。

 しっかりとした前知識を持ってこの場に望んでいる点を見るに、さすが自身の教育者でもあったオネスト司祭の下で学んでいただけはあるのだろう。


「第一貴様、『聖天騎団』なのだろう?国を守る貴様が、帝国のことを忘れているなど洒落にならんぞ」

「そう言う細かいことは気にしないたちなんだよ」

「……救いようのないバカだな」

「あ!?」

「ルール2!!!」


 再び起こりそうになる火花をすぐにヤコブが鎮火する。

 睨み合っている両者だが、指示に従ってくれたのか、手を出す直前で留まっている。


「……今セクアが言ってくれた通り、以上の理由から今回の件は放送しないし、極秘です。納得しましたか?フランメ」

「ああ分かったぜ。こいつは今すぐ潰さないとダメってことがな」

「違う!そうじゃない!」

「教皇様」

「え!?」


 睨見続けているフランメを意に介さず、まるで何事もなかったかの様に振る舞うセクア。それにヤコブは、思わず驚きの声をあげてしまう。


「先ほどは、教皇様自らが説明をなさっているにも関わらず、差し出がましくも補足説明をしてしまい申し訳ありませんでした」

「いや、全然大丈夫ですけど……え、怒りは治ったんですか?」


 再び腰を落とし頭を下げるセクアに困惑しながらも、そのあまりの切り替えの速さに、ヤコブはつい質問をしてしまう。


「はい。問題ありません。教皇様が止めるよう仰いましたので」

「ああ……なるほど」


 理解はできなくとも、納得はできたためにその答えを受け入れる。

 ふと話が脱線しすぎていることに気づき、一回咳払いをした後に、ヤコブは再び話を戻した。


「それで、運ばれたこの旅道具は、僕たちがこの任務をやっていることを外に知られないための変装道具です。その為お二人には、これらの服に着替えてもらった後、必要な道具の詰まったバックパックを持って南城門前に集合してもらいます。よろしいですか?」

「かしこまりました」

「わかった!」


 いつの間に気を良くしたのか、フランメの天邪鬼に、今日何回目かもわからない驚きを感じたところで、ヤコブは着替えの為部屋を移動するよう2人に促した。







「……あれ、移動しないんですか?フランメ」

「ああ!アタシは別に裸を見られようと気にしないからな!」

「……そうですか」


 言い残し、ヤコブは部屋を移動した。



—――――――――――――――


読んでいただきありがとうございます!

励みになりますので、いいねやフォローの程よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る