9節 前途多難

「ルールを決めます」

「「………」」


 セクアとフランメ、両方のいがみ合いを落ち着けたヤコブは、場所を移動し、アルカディアの南城門、その検問所のとある一室にいた。

 本来であれば、危険物などを所持していた者を軟禁、あるいは尋問するためにある部屋を、ヤコブの立場や任務内容から、今回は特例といった形で貸してもらっている。


 コンクリートでできた正方形の部屋に、机と寝具1つずつ置いてある無機質な部屋。机を囲うようにして、3人は椅子に座り話し合っていた。


「その1。他人の意見を尊重する。同じ信徒でも考え方に差があるのは当たり前です。根本的に教義に反する様な考え方でない限りは、例え自分と反する考え方であっても、否定するのは止めましょう」

「はーい」

「分かりました」


 ヤコブの提示したルールに、フランメは気だるけそうに、セクアはハッキリとした声で返事をする。


「その2。喧嘩をしない。2人の間に何があったのかは知りませんが、最初から暴力に走るのは止めてください。せめて口喧嘩だけで。これから一か月間共に旅をするのですから、今すぐ仲良くしろとはいいませんが、いがみ合うのは止めましょう」

「はーい」

「……分かりました」


 変わらず気の抜けた返事をするフランメに、その態度にイラついてか、少し眉をひそめながら返事をするセクア。

 不安はあるが、ひとまず事態を収束できたヤコブは、安堵の息を零す。するとタイミングを計ったかのようにドアの扉が叩かれ、3人の意識がそこへと向く。


「どうぞ」


 ヤコブが促すと、「失礼します」といった言葉と共に扉が開かれ、修道服を身に纏った何人かの信徒が大きな荷物を持って入って来た。


「教皇様。枢機卿から預かっていた荷物をお持ちしました」


 そう言うと信徒たちは、持っていた荷物を部屋の中へと入れていく。状況が掴めないフランメとセクアは、その光景を不思議そうに眺めている。


「預かっていた荷物は以上になります。危険物が入っていないか、検査魔法による確認はしましたが、指示された通り中身の確認はしていません。何か疑問点や足りない物がありましたらすぐにお呼びください」


 そう端的に言い残すと、信徒たちはふたたび「失礼します」と一礼した後、その場を後に———


「教皇様!」

「?」


 ふと、荷物を持ってきた一団の1人の青年が、ヤコブに声をかける。


「今回の任務、特に〝非国〟の奴らには気をつけてください!」

「……」


 青年に一言に、ヤコブの意識が一瞬固まる。

 

「おい貴様、何を勝手に動いている」


 青年の勝手な行動に、その一団のまとめ役である男が、青年を引き戻しにやってくる。


「教皇様、大変失礼いたしました」

「し、失礼しました」


 男に続き、青年も頭を下げる。


「…いいえ、気にしないでください。わざわざありがとうございます」


 ヤコブの言葉に、青年は、少し誇らしげに喜びを表情に出し、その後、すぐにこの場を後にした。


「……」

「ヤコブ様?」

「…あ、いいえ、なんでもありません。それよりも話を戻しましょう」


 何かを誤魔化すよう濁しながら、ヤコブは、先の一団が運んできた荷物を机の上に置く。


「何だこれ?」

「旅の道具です」

「道具って……具体的に何のこと―――何だこれ?」


 目の前に広げられた道具に、フランメが気の抜けた声を出す。


 コートや動きやすい素材でできた服。帽子にゴーグルやでかいバックパック。その他にも水筒や持ち運びのコンロ、寝巻きなどが並べられる。


「今回の僕たちの任務内容は?」

「知らねー」「〝英雄〟の捜索です」


 ヤコブの質問に、セクアは即答する。


「はい。その通りです。……え、フランメさん本当に知らないんですか?」

「あ〜そう言えば隊長がそんなこと言ってた気がするな。眠かったからよく聞いてなかった!」


 笑いながら言うフランメに若干の苦笑いを浮かべつつも、ヤコブは説明を続ける。


「セクアさんの言う通り、今回の僕たちの任務は―――」

「教皇様。私如きに敬称などしていただなくて結構です」

「え……じゃ、じゃあセクア」

「はい」

「……話を戻しま―――」

「えー!それならアタシのことも『フランメ』って呼び捨てにしてくれよ!」

「……分かりました。……フ、フランメ」

「おう!」


 今までの人生で、その立場上対等な交友関係を築けた者がいなかったヤコブ。そのためか、少しばかり気恥ずかしそうに名前を呼ぶ。

 その緊張を落ち着かせるため、一呼吸挟んだと、再び話を再開する。


「セクアさ……セクアの言う通り、今回の任務は“英雄”の捜索です。そして、この任務は機密事項です」

「はい。心得ています」

「何でだ?」


 フランメの反応に「やっぱり」と内心思いつつ、ヤコブは説明を続ける。


「フ、フランメは忘れてしまっているようですが、任務の内容は機密事項。と言うのも、今回私が見た予知夢の内容は、私が今まで過去に見てきたものと、明らかに違う点があるからです」

「違う点?」

「?」


 セクアとフランメ、両者共にヤコブの言葉に疑問を浮かべた表情を見せる。


「お二人には、任務のこと以外は何も知らされていませんでしたね。簡単に異なった点を言いますと、今回未来で起こる厄災、その原因がわからないんです」

「!」

「?」


 ヤコブの言葉に、セクアは何かに気づいた様子を見せ、フランメは相変わらず分からないといった顔を見せている。


「今までの予知夢では、災害にしろ何にしろ、その原因が推測できました。……しかし今回の予知夢は違います」


 ヤコブの脳裏によぎる、火の海の光景。

 現在の世界において、最も強い力を持つアルカディアとパスリエ帝国、その両国の人間が苦しみ、逃げ惑う光景。


「今までは、私が予知夢を見た際、すぐにその情報を様々な通信機器や魔法を使って国中に知らせるようにしていましたよね?」

「ああ!あのうるさい奴か!毎回しつこく流れてるから嫌いなんだよな〜」

「え……ご、ごめんなさい」

「おいバカ女。次何か不敬な言葉を口にしたら、その瞬間二度と喋れないようにしてやるからな」

「あ?」

「ルールその2!ルールその2!」


 一色触発となる空気をすぐさま宥めるヤコブ。やはり道のりは遠いらしい。



—――――――――――――――


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