8節 不安なメンバー

「アタシの名前は、フランメ・バルバルス・レックス!よろしくな!預言者サマ!」

「様なんてつけないで、気軽にヤコブで良いですよ」

「そうか!じゃあよろしくな!ヤコブ!」


 サウサーンシティで突如起こったテロ行為。その実行者を拘束したヤコブたちは、町の治安を守る教会直属の治安部隊が来るまでの間に、自己紹介を行っていた。

 そして今元気よく挨拶を行ったのが、赤と黒を基調とした修道服を身に纏った、赤髪ロングの褐色少女。身長がヤコブよりも一回りほど大きく、3人の中で1番長身のため、一見年長者の様に感じるが、幼さの残る顔と声色がそれらの要素を相殺している。


「隊長から話は聞いていたけど、アタシの想像以上だった!いや、本当この任務を受けて良かったよ!」

「隊長……もしかして〝聖天騎団〟に所属しているんですか?」

「ん?ああ、そうそう!よく分かったな!」


 聖天騎団―――アルカディア国内において、極めて戦闘能力が高いと判断された魔導士のみが所属できる精鋭部隊。試験は無く、基本的に優秀な成果を残した者がスカウトされることで入団が決まる。


「あなたの洗礼名が『バルバルス』だったので。彼女が得た功績の数々は、小さい頃から聞いていました。シュリアム枢機卿もよく褒めていましたよ」

「そりゃそうだ!隊長は、アタシが尊敬してる唯一の人だからな!」


 まるで自分が誉められたかのように嬉々とした表情を浮かべるフランメ。

 その無邪気な笑顔につられてか、ヤコブの方も自然と笑顔になり、和気藹々とした空気が生まれる。


 だが、そんな楽しい雰囲気が突如として崩れ落ちた。


「……チッ」

「……何だよ?」


 突然の舌打ちに、ヤコブは驚き、フランメは舌打ちをした本人の方に目を向ける。


 藍色の髪にメガネをかけた、黒と青を基調とした修道服を身に纏った少年。機嫌の悪い表情を見せた後、すぐさま真顔になり、フランメから向けられる敵意の視線を浴びたまま、一歩、二歩と足を進め、ヤコブの前へと立つ。


 突然険悪な雰囲気に呑まれた場に動揺しながらも、ヤコブは目の前の少年の目を見る。何を考えているのかまるでわからないそのポーカーフェイスに若干気圧されながらも、言葉を発そうと口を開いた次の瞬間―――


「―――お待ちしておりました。教皇様。先の無礼をお許しください」

「……へ?」


 先ほどの態度とは違い、突然ひざまつき、頭を下げた少年に、ついヤコブは間の抜けた声を出してしまった。


「私の名は、セクア・オネスト・ウーリウス。オネスト司祭の元で10年間修行をいたしました。まだまだ若輩の身ではありますが、必ずやこの大命を成し遂げてみせます故、何卒よろしくお願いいたします」

「……!ああ、うん。よろしく!」


 とても先ほど舌打ちをした人とは思えない態度に、呆気に取られるヤコブ。


 変わらず、敵意の込めた視線をセクアと名乗った少年に向けているフランメ。すると、セクアが頭を下げた姿勢のままフランメの方に視線を向け、そのまま口を開いた。


「申し訳ありません。教皇様」

「?」


 セクアの声と視線に注意を引かれ、ヤコブも視線をフランメの方へと移す。


「あの者は、教養など一切受けたことのない野蛮な者です。私が側にいながらあのような者を貴方様の側に近づけてしまったのは、私の失態です。その挽回のため、今すぐあの者に処罰を与えますので、少々お待ちくださ―――」

「いやいやいやいやいや!!ちょっと待ってくださいって!!」

「?」


 セクアの唐突すぎる処刑宣言に驚き、声を荒げてしまうヤコブ。セクア自身は、なぜヤコブに止められたのか分からないと言った顔を見せている。


「な、何で罰を与える流れになってるんですか!?」

「?……あの下賤な者が、教皇様に無礼を働いたからですが?」

「いや、全然無礼なんて働いていませんって!」

「……!さすが教皇様。あの様な下劣な者さえも許せる懐の広さをお持ちとは、感服いたします」

「えぇ……」


 自身の言葉が全て好意的に解釈されることに、若干の恐怖を覚えるヤコブ。

 立場上、教徒が自分に対し尊敬の念を抱くことは数えきれないほどにあった。そのためヤコブ自身、誰かから敬愛の眼差しを向けられることには多少なりとも慣れていたのだが、それでもここまで自分に心酔している者は見たことがなかった。


 故に、長年信徒に対し様々な対応をしてきた経験がありながらも、ヤコブはこの時、何と返事をすれば良いのかまるで分からなかった。


「いやー、ごめんねヤコブ」

「!」


 困惑しているヤコブのもとに、先ほどまでセクアに睨みを効かせていたフランメがやってきた。


「こいつ頭がどうかしちゃってるみたいでさ、絶対碌なことにならないから今回の任務から外してくれない?いや、外そう!」

(ああ、やっぱり仲悪いんだ)


 笑いながら事態を悪くするフランメに、再びセクアが口を開く。


「黙れ蛮族。貴様のような猿がいる方が問題だ。そんなに俺と別れたいのなら、物理的にこの世とさよならさせてやろうか?」

「臨むところだ。テメーこそ今すぐあの世に送ってやるよ」

「いや、やめてくださいって!」


 一色触発の空気を見かねて、ヤコブが大声で両者を静止する。その想いが届いたのか、セクアとフランメも睨みあったまま手を出すのを抑えている。


「残念だったな。今すぐ神サマに会えなくて」

「貴様こそ、教皇様の恩威に感謝するんだな」

「だから止めてくださいって!」


 幸先不安なメンバーに、ヤコブは少し辟易とした。



—――――――――――――――


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