決闘 4

 夜空と秋星、二人から放たれる《ルミナス》が衝突し、巨大な爆発が起きた。


 そして衝撃とエネルギーに辺り一帯が呑まれた。


 その影響を受けた森は、著しい変化を遂げる。

 大量の《ルミナス》吸収した木々や草花は、ありえない速度で成長していき、森の一部がまるでジャングルのような地形に変わる。

 

 そして天高く成長した木々たちは、夕を呑む夜の闇を拒むように眩い輝きを枝葉から放ち、未だ衝撃の中心で火花を散らす二人を照らした。


「うむ、なかなか風情があるな」


 先に動いたのは秋星。

 差し込む光を見て一言残し、突如として夜空の視界から姿が、気配すらも消える。


 またもやそれに反応できなかった夜空は顔を顰める。


「チッ、厄介だな。仕方ねぇからまとめて吹っ飛べよ」

 

 そういって、夜空は強く右腕を振った。

 すると強力な衝撃波が発生し十メートル先までに並ぶ巨木たちが次々と音を立てながら薙ぎ倒される。


「残念、こっちじゃ」


 夜空の背後、そよ風のような心地いい声と共に出現する気配。


 ──そして直後、朱色の閃光が森を駆け抜けた。

 

 常人では回避不可能な超速の一撃。


 しかし、夜空はその一撃を、気配が現れた瞬間に迷わず上に跳ぶ事で回避する。


 跳んだ夜空の真下。

 直線上五〇〇メートル、その範囲にあったもの全てが真っ二つになっていた。それも空間ごと切り取られたと錯覚してしまう程の異常で鮮やかな切り口で。 

 

「ハッ!! んだよこの威力!!!」 


 そして、朱色が過ぎ去った跡を見た夜空は楽しそうに吠えた。


 一方、秋星は感心したような表情を浮かべた。


「ほう…。これを躱わすか、だが」


 未だ空中、体制の整わない夜空に向かって秋星は朱く染まる刀を使い、追撃を始める。


 しかし、

 

「まさかの連射かよ!! ま、見えてんだから問題ねぇけどな!!」

 

 そう言う夜空が空を強く叩くと、その攻撃全てが砕け散った。そして難なく地面に着地した夜空は秋星に向かって弾丸の如く一気に加速する。


 その尋常ではない動きを見ていた秋星は目を丸くするも、身体は既に応戦の構えを取っていた。


 加速力の乗った重い拳が秋星に目掛けて放たれる。

 

 常人を遥かに凌ぐ秋星の身体待ってしても当たれば致命傷。そんな計り知れない力が込められた拳に対して秋星は敢えて一歩踏み込む事を選択する。


「あ?」


 刀と無手、そのリーチ差というアドバンテージを捨てるような愚策に思わず疑問の声を溢す。


 だが、それに対して秋星は不敵な笑みを返した。


「ハッ、そういことかよ‼︎」


 そして何かを察して叫ぶ夜空は、嬉々としてその拳を振り抜いた。

 

 ──轟音。

 駆けてゆく衝撃に地面が割れ、木々や岩が砕け高く吹き飛ばされる。


 だが、そんな嵐の中で楓模様の着物がはらりと揺れていた。


 それは夜空の一撃を完璧に受け流した秋星の姿。

 秋星は眼前に迫る拳に対して低く踏み込み、まるで拳を掬い上げるように刀を振り軌道を変えてみせた。


 交差する視線、そして次の瞬間再び衝撃が奔る。

 

 二撃目、三撃目、殴り流されと、幾度となくぶつかり合う二人。

 

 そして、その最中いつまにか朱く輝く秋星の刀。

 それは、リチャージが完了した合図。


「先は躱されてしまったが、ゼロ距離ならどうじゃ?《獅子の流星》」

「おい、マジかよ」


 秋星の声に反応したのか、朱刀が急激に加速する。

 

 超近距離の急加速、首元に迫るそれを回避する事は夜空にとって訳ないが先の秋星の行動を思い出した夜空は受け止める事に決める。


「今度は俺の番だ、秋星さん!」

「ハハッ、面白い子じゃ」


 まるで自ら首を差し出すように刀の前に出た夜空に秋星はコロコロと笑い、そして線を走らせた。


 そして再び世界は朱に切り取られた。

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