決着 

 バキバキと連続で響く鈍い音。

 それは猛スピードで吹き飛ぶ少年が森の木々とぶつかる事によって発生していた。


 直後、少年が大岩と激突し爆音が森をこだまする。


「ふむ。なかなかの威力だが無防備の俺に、これじゃ足りなすぎる」


 秋星の一刀で吹き飛ばされめり込んだ岩の中で夜空はまるで何事も無かったかのように、そう感想を溢す。


 そして、パラパラと体に落ちてくる岩の破片を振り払いながらめり込んだ岩を抜け出した夜空は、眼前に広がる光景を前に頭を捻る。


「んー、でもこんなもんなのか?」 


 秋星が繰り出した二度目の朱き閃光獅子の流星。それは次の手を考えて抑えた一撃よりも遥かに強力な代物だった。

 

 現在夜空が立っている場所は、元いた位置から直線距離で約一キロメートルほど離れた山頂付近。

 つまり閃光は約1キロもの距離を一瞬で駆け抜け、その間にある物すべてを破壊した。


 その凄まじい破壊力を正面から受けて、地表しか残らない森を見ても尚、夜空という怪物は物足りないという。


「ま、じゃこんなもんだよな。次の機会に期待だ」


 何に納得したのか、夜空は仕方ないと横に首を振る。そして、抉れた地面を歩き始める。


 目指すは自身を吹き飛ばした存在、唖然とした表情を浮かべた秋星の下へ。


「さて、終わらせるか」

 

 夜空の瞳が強く輝く。


 ──そして、秋星は空高く打ち上げられた。


 それは秋星にとって一瞬出来事だった。


 視界から突如として消えた夜空。警戒する間も無く激しい衝撃と浮遊感に襲われ、その視界には地平線が広がっていた。


 そして、いつの間にか右半身は完全に砕けており、その手に握られていた筈の刀もない。


 つまり、今の秋星に為す術は無い。

 

 理解が追いつかない。

 

 しかし、そうも言ってられる状況ではなかった。

 このままでは上空3000メートルの高さから落下する事になる。そうなってしまえば刀が本体の秋星はともかくタイムの身体は完全に死ぬ事になる。


「グッッ!」


 頭によぎった最悪な未来を想像した秋星は、激しい痛みに耐え、なんとか体勢を調節する。そして、ありったけのルミナスで、まるで繭のように身体を包み込み、迫る落下に備える。


 しかし、できたのはそこまで。

 唐突にタイムの身体は限界を迎え接続の切れた秋星は意識を失った。


 そのため落下に備え展開された《ルミナス》の繭もまた、解除されてしまう。そして、ジリジリと風を切りながら地面へと近づいて行く。

 

 このまま落ちれば間違いなくタイムは死ぬ。


 だが、


「危ねぇ、加減ミスったな」


 寸前の所で、夜空がふわりとタイムをキャッチした事により回避された。


「ま、とりあえずは終わりだ。早いとこユリウスさんとこに連れてくか」

 

 そうしてタイムを抱えた夜空はその場から消えた。



 ◇ ◇ ◇


 

 目の前で繰り広げられた壮絶な戦いの決着。

 それを見届けた少女、リリスと執事のユリウス。


「タイム……!!」

「なんとも凄まじい。刻異武装を使ったタイムがこうも簡単に倒れるとは……」


 今にも飛び出しそうなリリスとは違い至って冷静なユリウスは呟き、タイムを抱えたまま姿を消した夜空を見て襟を正した。


「おっと、これは早く準備をしなくてはいけませんね」


 そう言ってユリウスは自身の《ルミナス》を地面に流し始めた。


「ッ! ユリウス、私もやる!」

「それは助かります。では、お嬢様。この陣を完成させていただけますか?」

「うん、わかった!」


 コクリと頷いたリリスはユリウス同様に大地にルミナスを流し始める。

 

 緑色に光る《ルミナス》は地を奔り、一つの陣を形作っていく。


 その途中、ユリウスの後ろに気配が現れる。 

  

「準備はもう少しかかりますよ、夜空殿」

「そっか、んじゃタイムさんはここに置いていっていいか?」

「えぇ、それは構いませんが、夜空殿はどちらに?」

「俺は森の方を治してくる。じゃないとババアが煩いからな。話はそれが終わってから、な!」


 現れたと思ったら地面にタイムを置き、夜空はまたすぐにその場から消えてしまった。

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