決闘 1

 喫茶店 めーぷる。


 突然の決闘、その聞き慣れない言葉に店内は騒然とする。

 

 そして、夜空とタイム、その二人のやりとりを静かに見守っていたユリウスも口を開いた。

     

「やめなさい、二人共。多少の衝突は仕方ないと見守っていましたが、決闘は流石にやり過ぎです」

「私もそう思う! 危ないよ! タイム!」


 今にでもこの場で爆発しそうな二人を止めようとする、ユリウスとリリス。


「邪魔すんな」

「邪魔しないでください」 


 しかし、今の二人に言葉は届かず、バッサリと切り捨てたられた。


「ツッ! うぅ、ユリウス……お願い、なんとかして!」

「はぁ……、やはり言葉では止まりませんね。全く仕方のない……」


 切ない表情を浮かべるリリスにお願いされたユリウスは仕方なく席を立ち、睨み合う二人の間へと割って入り、パンっと手を叩いた。


「わかりました、こうなったら場所を変えましょう。二人とも、店を壊すのは望ましくないでしょう?」

 

 二人を制したユリウスはそう提案した。


「……わかりました」

「オッケー、店壊したら飯食えなくなるしな」


 その言葉に二人は、素直に同意し店を出ていく。


 そして、ユリウスとリリスも会計と迷惑料を払い先行く二人の後へ続いた。


 

 ◇ ◇ ◇



 街中をかなり離れた山の中、ぽっかりと空いた穴のような広場で二人の男女が対峙していた。


 紅葉の模様が装飾された刀を腰に携えた金髪の女性と何も持たず、ただ笑みを浮かべる蒼い瞳の少年。

 

 そした、その二人の間にいた燕尾服の男が口を開いた。


「二人とも基本的になんでもありですが、絶対に死ぬ事がないようにしてください。それ以外は私が治します。いいですね?」


 対峙する二人にかけらた言葉はとても簡潔で、物騒なものだった。


 しかしその危険な言葉に二人は一切動揺する事は無い。


 ただ一言、


「あぁ」

「わかりました」


 そう返事をするだけ。

 双方、相手から視線を外す事はしない。


「このコインが地面に着いたらスタートです。では、いきます」


 そう言ってユリウスはコインを弾き、その場を離れる。

 

 クルクルと回りながら上昇していくコイン。

 そして、すぐにコインは上昇をやめ落下していき、キンッと音を立て地面へ触れた。



 次の瞬間、ありえない衝撃が大地を揺らした。



 ◇ ◇ ◇



 広場から離れた丘の上。

 

 そこから二人のことを見守っていたリリスは息を呑むほどの緊張感を感じていた。


 リリスの見据える先は金髪の女性、タイム。


 彼女はリリスにとって姉のような存在だった。

 忙しい両親の変わって、いつもそばにいてくれた大切な存在。


 あまりに急な出来事、決められた決闘。

 

 どうにかしたい。

 いくらそう思っていても、目の前の壮絶な戦いに身体は震えている。


 この戦いは自分には止めることなどできない、と少女の身体は理解していた。

 

 いつだって強者とは理不尽だ。

 そんな、当たり前の事実を見せつけられた少女はその場でスカートの裾を強く握りしめるしかできない。


 そんな時、燕尾服の男ユリウスがリリスの元までやってきた。


 ユリウスはリリスの頭を優しく撫でる。

 

「お嬢様、そんな顔しないでください。この決闘は滅多に見ることのできない。たち戦いです。お嬢様の気持ちもわかります。しかし、耐えねばなりません」


 優しく安心するような声音、しかしその言葉はリリスの求めていたものでは無かった。


「どうして……? 絶対おかしいよ! だって急にこんなの……」

「お嬢様、争いとは世の常なのです。人はそれぞれ異なる世界で生きています。思考、言葉、行動、環境。些細かもしれません。しかし、そんな些細な事が歪みとして争いへ繋がる」


 ユリウスは、ゆっくりと言い聞かせるように言葉を並べていく。


「自分がどれだけ相手を思い、伝えた言葉や行動であろうとも、状況次第で相手にとっては刃になってしまう」

「じゃあ、どうしたらいいの……?」


 涙を浮かべ問いかけるリリス。


「簡単な事ですよ。ただ、を見るのです。自分の持つ相手の過去の想い、記憶、姿形、これらも確かに重要です。しかし、それよりも重要なのは更新され続ける相手のを見逃さない。これこそが争いを生まない方法です」


 そう言ってユリウスは膝をつきリリスの溢れる涙を拭いた。


「お嬢様、この先あなたは幾千の争いを経験する事になる。それがエーデルワイス家に生まれた者の宿命。けれど、もしお嬢様が目を伏せる事なく、を見ることができたなら……。必ず、良き未来が訪れる筈です」


 だから、とユリウスはリリス目を真っ直ぐに見つめ言った。


「だから見届けましょう、彼らの今を」

「うん……!」


 そう返事をした、リリスの瞳はとても美しく鮮やかな光を放っていた。

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