異能者たちの宴 1

 街外れの古い駄菓子屋。


「天海様。貴方に仕事を依頼したい」


 60代半ば、しかしその年齢を感じさせない程の覇気を見に纏う燕尾服の男はレジの裏に座る夜空に向かって開口一番にそう言った。


「仕事の依頼? いきなりなんだアンタは?」

「これは不躾に失礼した。私はユリウスと申します。普段はとある方の執事をしております」

「へぇー。そんな格式高そうな所の執事さんが俺みたいな廃れた駄菓子屋店員に何のようだ?」

「ご謙遜を。この街の噂は知っています。【異能狩り】の天海夜空の、噂は」


 【異能狩り】そのワード聞いた夜空はピクリ眉を動かす。


「へぇ。俺の噂って海外まで届いてんだな。ってんなわけねぇよな。一体、誰から聞いた?」

「はい。状況提供者はかの白銀の姫です。嬉々として貴方の事を熱弁されておりましたよ」

「あの女、マジかよ……。にしてもユリウスさんだっけ? アンタ随分とあっさり答えたな。理由でもあんの?」

「ええ。聞かれれば隠すな。それが身のためだと。白銀の姫が仰っておりましたからね。実践したまでです」


 そう、ニコリと笑う燕尾服の男。


「最悪だ。あの女、人のことをベラベラと喋りやがって。まぁ、仕方ねぇ。遥々遠くから来たんだ、話くらいは聞いてやるよ。まぁ座ってくれユリウスさん」

「感謝します、天海様」

 

 渡されたパイプ椅子を受け取ったユリウスは夜空の正面、レジカウンターを間に挟む形で座った。


「あと天海様ってのやめてくれ。夜空でいいよ」

「承知しました。ではこれからは夜空殿とお呼びいたしましょう」

「んーまぁいいよそれで。さっきよりはマシだ。それより話が逸れたちまったな。それで内容は?」

「はい、依頼の内容ですが、夜空殿には私のお仕えしているお嬢様。リリス様の護衛を依頼したい」


 護衛、それは夜空にとって、とても意外な依頼だった。

 大抵のこの店にやってくる人間たちの依頼内容は異能者関連の物ばかりだからだ。


「護衛……? 具体的には?」

「三日後。この国で、主催者の分からない。謎のパーティーが開かれるのです。そして何故か、そのパーティーの招待状がリリス様の元に届いたのです」

「ん? どういう事だ? アンタ達はそんな聞くからにヤバそうなパーティーにお嬢様とやらを連れて行く気なのか? それで俺に護衛を? 流石に、それは危機管理がなって無さすぎるだろ」

「残念ながら夜空殿の仰る通りです。そして、そのパーティーへお嬢様を行かせること決めたのはエーデルワイスの現当主。ディル・エーデルワイス様。つまり、リリス様のお父上なのです。故に、お嬢様も強く拒否する事は出来なかったのです。無論、私にも……」


 そう語るユリウスはとても暗い表情を浮かべている。


「んだよ、それ。一体なんの目論みがあったら自分の娘をヤバいパーティーに参加させようと思えるんだ?」

「それは……、わかりません。しかし今の当主は明らかに様子がおかしい。それだけは間違いないでしょう」

「いや、すまん。そこら辺の事はもう決まった事なんだよな。どうしようもない理由がある。だからユリウスさんは今、俺みたいな部外者を頼ってんだ。そうだろ?」

「……、はい」


 夜空の解釈に、深く頷き肯定するユリウス。


「わかった。んじゃ最後に聞かせてくれ、ユリウスさん。アンタの依頼はお嬢様の護衛。つまお嬢様が無事なら、それでいいんだな?」

「夜空殿、一体何をするおつもりですか……?」


 念押しするような夜空の問いに、ユリウスは困惑した。


 それに、対して夜空は。


「いや? 別に大した事じゃないんだが。ただ護衛とか面倒な事しなくていいようにさ、そのパーティーを、そこにいる人間を丸ごと潰そうかなと思ってる。それだけだ」

「はい……?」

 その発言にユリウスは唖然とし完全に固まってしまう。


 そして、その時の夜空は悪い笑みを浮かべ、瞳は蒼く輝いていた。

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