運命に選ばれた少女

「神を、創る……? いったい何を言ってるの社長?」

「いや、神というのはただの比喩だ。奴はただ自分に並び立つ存在は求めている。そして、そんな存在は神しかいない、と奴は思っているだけだ」

「やっぱ激ヤバい奴じゃん。神様なんて創れるわけないのに」


 スーツ男が語る、少年のトンデモ思考にドン引きする花恋。


「確かに神と呼ばれる存在を創ることは無理だろう。だが、奴を倒せる最強の異能者を創り出せる可能性ならある」

「えっ……!? あるの!? 一体どうやって!? ぶへぇ!」

「二度は食わん」


 またしてもスーツ男に飛びかかる花恋だったが華麗に躱され、そのまま床に激突した。


「話の続きだ、早く座れ」

「はい! すみまへん……」


 スーツ男の少し怒気の籠った言葉に花恋は急いでベッドに戻り正座した。


「よろしい。では先ほどの続きだ。少し話は戻るが、私は奴に敗れた後。私は奴との契約を果たすために数人の仲間と共に旅にでた。そして、このを使い世界中の異能者たちを見て回った」

「うん、それでそれで?」

「結局、私たちは何の収穫も得られず二年もの時が過ぎた。このままではマズいと悟った。奴と交わした契約の期限は奴の十六の誕生日までの六年間。つまり約四年程の時間しか私たちには残っていなかった。私は私の持つ目を過信していたんだ」

「うん」


 ゆっくりと思い出すように語られるスーツ男の秘話。そして、その言葉に神妙に頷く花恋。


「そうして私たちは闇雲に探す事を諦め、奴の言うように創り出す事にした。しかしこちらも最初の一年間はなんの成果も得られずにいた。私たちは、ただ迫り来る時間に焦り、不安、恐怖、と様々な負の感情が溜まり無益な衝突が増えた」

「うわ最悪……」


 スーツ男の言う最悪の状況を想像してしまった花恋は思わず言葉を溢す。


「そうだ、最悪だった。だがな本当の最悪はこれからだった」

「えっまだあるの!? 長い! そして重い! この話って後どれくらいあるの!?」


 今までの話で既にお腹いっぱいだった花恋は堪らず聞いた。


「本当にお前は堪え性が無いな、仕方ない。ここから簡潔にまとめよう。旅の中、私たちは幾度となく意見衝突した後に、結局纏まることなく二つの組織へと別れた。その一つがたった一人の究極を創り出す為の【CREA】。そして、もう一つは吸血鬼を筆頭に特殊な人間のみで構成される。何を使ってでも奴を殺す、その目的の為に造られた組織【IMDイムド】だ」

「【IMD】って……激ヤバ犯罪集団じゃん! 社長そんな人たちと知り合いなの!?! 関わるのやめた方がいいよ……」

「お前は何を言っている。はなから私たち【CREA】は正義の旗など掲げてなどいない。そもそもお前は自分が何をして奴に殴られたのか忘れたのか?」

「うっ……、それは、、えっと、食事……?」


 スーツ男の指摘に、今までの行いを思い出した花恋は言葉を詰まらせる。


「お前にとってはな。お前は自分が今、世間になんと呼ばれているか知っているのか?」

「えっ? 嘘、私いつの間にか有名人なったの?」

「あぁそうだ。ただし悪い意味でな。お前は、今世間ではこう呼ばれている。『神出鬼没の痴女』とな」

「は?、えっ? 嘘だよね? なにそれ……? 痴女……、う、そ、嘘だぁぁ、うわぁぁん。もっと早く教えてよ社長ぉぉ!!」


 不意に出された衝撃的な言葉を受け止められず涙を浮かべて叫ぶ花恋。


「知らん、自業自得だな。それより話が大分それたが続きを」

「そんな! ひどい! 社長なんてもう嫌い!!!」

「なんだと? っておい、最後まで話を、、クソ、速すぎる」


 スーツ男の目の前から一瞬のうちに姿を消した少女。

 

「はぁ、面倒な。白羽花恋、あんな少女が私たちを救う神子みこだというんだから、世界とはわからんものだな」


 そう言ってスーツ男は疲れたように天を仰いだ。

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