異能組織【CREA】

 公園から数キロ離れた灰色のビルにやってきた少年。

 

 少年はビルのエントランスに入り、優雅にソファに腰掛けたメガネにスーツといういかにもな男へ近づく。

 

「よぉ、眼鏡ボス。アンタのお望み通り連れてきてやったぞ。たぶんコイツが例の街を騒がせてた異能者だ」


 そう言って少年はスーツ男の前のソファに少女を降ろした。


「ほう、彼女が……」

「異能の詳細は知らん。弱すぎて異能使う前に潰れちまった。だからそっちで適当に確認を頼むわ」

「分かった。諸々はこちらで確認しよう。迅速な対応助かった。報酬もいつも通り口座へ振り込んでおく。また頼む」


 それだけ言い残し、スーツの男は少女を抱えてエントランスの奥へと姿を消した。


「話は早いが、何度見ても胡散くせぇ奴だな」


 そう一人呟き、少年もまたその場を後にした。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 


 白いベットの上で眠る黒髪の少女。

 そしてその少女を見守るように横で椅子に腰掛けたスーツの男。


「花恋、いい加減に下手な芝居はよせ。早く起きて何があったのかを説明しろ」

「あー、やっぱりバレてたか。相変わらず、いいだね、社長」


 スーツ男の声を聞き、花恋と呼ばれた少女はバサっと布団を翻し起き上がる。


 それを見てスーツ男は、ため息を吐いた。


「はぁ、目は関係ない。お前の不出来な演技では騙せるのは子供くらいだ。現に奴も気づいていたぞ」

「嘘、そんなー。でも私が能力を使った時には反応無かったけどー?」

「それは、恐らく奴の悪癖が出ただけだろう」

「悪癖……?」


 スーツ男の言葉にポカンと首を傾げる花恋。


「あぁ、お前は身をもって知っているだろうが奴は強い。現状、奴に勝てる人間を私は見たことがない」

「え、確かにとんでもなく強かったけど社長でも勝てないの……?」

「あぁ。私は過去奴に無惨に敗れた。当時、組織に所属していた三百人の異能者もな。そして組織は崩壊寸前。私がお前を拾う数年前の話だ」

「そんな! 社長が負けた!? そんな話、私聞いてないんだけど!? それに組織が壊滅寸前!? でも【CREAクレア】は今もあるじゃん。どういうこと? ねぇ!!」


 花恋は、スーツ男の衝撃の過去話に脳の処理が追いつかないのか、ベットから身を乗り出して男の肩を掴み揺らし捲し立てる。


「おいやめろ。焦るな、掴むな、揺らす、な!」

「あ、痛い」


 制止の言葉に聞いて尚、肩を揺さぶる花恋に男は鉄拳を下した。


「ふん、落ち着いたか?」

「はい。ふみません……」

「なら話を戻すぞ。組織の異能者が悉く奴に敗れ、私も瀕死の状態まで追い込まれた。しかし、奴は私にとどめを刺すことはしなかった。なぜだと思う?」

「んー、人を殺すのが嫌だったんじゃないの? 言っても強さ以外は一般人でしょ?」


 少し悩んだ末に花恋は答えた。


「半分正解だ。確かに奴は誰かを殺す事はしない。だがそれは出来ないではなくしないだけた。奴にとって我々など、生死に関わらずなんの害にもならないからな。どちらも変わらない、故に奴は人を殺さない」

 

 嫌な事を思い出したのか、スーツ男の声のトーンが下がる。


「奴は間違いなく理を逸脱した存在だ。だから自分に対して誰が何をしようと気にも止めない。自分が脅かされるなんて思ってもいない。お前が奴に異能を使った時反応がなかったのもこれが理由だろう。コレこそが奴の悪癖だ」


「うへぇ、ヤバい奴……。ていうかもう半分の正解はなんなの?」

「なに簡単な話、私と組織に利用価値があった。それだけだ。そして負けた私と奴は契約を交わし、私たちは生かされ、今の【CREA】ができたわけだ」

「価値? 契約? 一体社長は何を求められたの……?」


 内容の節々が端折られ、聞いていた花恋は大量の疑問符を浮かべた。


 それに対して男はなんでもないように言った。


「奴が求めたのたった一つだけ、『俺に勝てる存在、神を創り出せ』それだけだ」

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