戦闘狂と欲喰らう蝶は闇夜の中で舞い踊る。〜最強の少年と簒奪の姫は異能世界で無双する〜

星の横にいる人

超越者と宴

プロローグ

 日が沈み、月明かりが差す人気のない公園。

 

 そして、その人気のない公園で三人の男が一人の女を囲んでいた。


「いやーこんな可愛い嬢ちゃんから声かけられるなんて、ツイてんなぁ!」 

「それな! こんな黒髪美人ちゃんとできるなんて最高すぎでしょ!」

「うっほォ! 可愛い顔して中身はケダモノ! 最高〜」


 一際大柄な坊主な男とジャラジャラと大量のアクセサリーを身につけた金髪男、ヒョロく長身長髪の男たちが興奮したように言った。


「そういうの要らないから」


 鬱陶しい男たちの声を無視した黒髪の美少女は服に手をかけ、白く美しい肌を露わにした。


「「おぉ!!」」

 

 目の前に広がる楽園を前に目線が男達は欲望の歓声をあげる。

 

「うるさ……」


 そんな男達の声にうんざりしたように少女は小さく呟いた。しかし少女の服にかけた手は止まる事なく、遂には豊満な胸元まで差し掛かった。


 そして釘付けになる男たちの視線。


「ツッ!!!」


 すると辛抱堪らなくなったのか、坊主頭の男がゴクリと喉を鳴らし、少女へと手を伸ばした。


 しかし坊主頭の手は、突然横からきた男の手によってがっしりと捕まり、少女に届く事は叶わなかった。



「アァ!? 誰だテメェ!!!」

「ハッ、下手な威嚇は相手を選べよ、オッサン。怪我するぜ?」

「なっ!? あ、アンタは、天海夜空あまみよぞら!? なんで、なんでここに!?」


 坊主頭の腕を掴んだ男。

 否、天海夜空と呼ばれた風変わりな少年は、一八〇センチ程の身長に筋肉質な身体、そして茶髪に蒼目と変わった見た目をしていた。


 そんな少年はニヤリと笑みを浮かべ坊主頭へと行った。


「なんでここに? ハッ逆に聞くが、オッサン。ここをどこだと思ってんだ?」

「そそ、それは、ただの、こ、公園で……」

「ちげーよハゲ。ここは俺がコンビニ行くための近道。つまり、ここは俺の縄張りってわけだ。言いたいことがわかるか? ハゲと、その後ろのセンスのねぇ金髪と棒切れの二人組。よし、10秒やるから、よーく考えて答えやがれ」


 つらつらと少年の口から男達に向かって吐き出される口撃と問いかけ。


 そして唐突に始まるカウントダウン。

 それを聞いた男たちはありえないほどブルブルと小刻みに震えている。


 何故ここまで怯えているのか、理由は簡単。 

 男たちの目の前にいる少年、天海夜空という人間は決して触れてはならぬ存在。


 怪物だからだ。


 天海夜空という人間がこれまでに残した逸話は数知れず。


 少年は10歳の時。気に入らないという理由で、ひとり不良の溜まり場に乗り込み、その場にいた120人全員を病院送りにした。その後、街に出ていた残党も残さず同じ所に送られた。

 

 そして少年に一度目をつけられた物は皆、この街から消えた。

 ただ街に住む住民また可能な限り彼の視界に映らないように生きている。


 そんな少年に出された問い、カウントダウン。

 それは暗に時間内に答えられなければお前らをブッ飛ばすと、そう言っているようなものだ。


「ごー、よーん」

「ッッ!!!!!」


 迫るリミットに男たちは大量の冷や汗を垂らし、浅い呼吸を繰り返す。


(そんなのん急に言われてもわ、わかるわけねぇだろ! あぁ、畜生! こんな事になるなら……、ってお前らなんか考えろ!)


 何も思いつかないのか坊主頭は後ろの二人にアイコンタクトをはかるが、二人は首を横に振るだけで無駄に終わる。


「さーん、にー、いーち」

「!!!!」


(まずい!! は、はやくなにか言わねー)


「残念、ゼロだ。正解は、」


 そうニヤリと笑った少年は手を伸ばした。

 怯える三人の男たちに向かって、ではなく自身の背後に向かって。


「──お前だ、女」

「きゃっ!?」


 素早く繰り出された少年の手が少女の頭を鷲掴みにし軽々と宙へと吊り上げた。いわばアイアンクローだ。


「痛い!! や、やめて!!!!」

「い、一体な、なにを!?」


 突然の行為に悲痛の声を上げる少女と意味のわからない状況に震えた声を漏らす坊主頭たち。


 そんな坊主たちに少年は。


「あー、ハゲたちはもういいや。帰っていいよ」

「えっ……!?」

「聞こえなかったか? 痛い目みる前に、この場所離れろつってんだ。さっさと行けよ」

「は、はいぃぃぃ!、」


 少女を見たまま振り返ることのない少年の言葉に込められた異常な圧力を前に坊主頭たちはただ頷き、その場をダッシュで離れって言った。


「よし、これで邪魔者も消えて存分に暴れられるな。そうだろ? なぁ異能者」

「……」

「ダンマリか。まぁいい俺もはなから話し合いなんてするつもりはねぇよ。俺の見てる前で異能を使った時点で、なぁ!!!」


 そう言って少年は鷲掴みしていた少女を高く放り投げた。そして少女の到達した高さは約14メートル、常人がそのまま落ちれば間違いなく死ぬ。

 

 しかしそれは、彼女が本当に常人だった場合の話だが。


「はぁ、バレるなんて本当に最悪。面倒くさい。私にはアンタみたいな野蛮人を相手にしてる暇なんてないのに」


 少女は宙に投げ出された身体をまるで舞うように美しく回転させ、地面へと着地した。


「その暗い桃色の瞳……、ビンゴだな。テメェだろ? 最近この街の人間たちを襲って喰い物にしてんの」

「喰い物? なにそれ、人聞き悪い。私はこの街の皆んなから少しずつを貰っただけ。殺してないし、喰べてもない。何がいけないの?」

「ハッ! わからねぇなら構わんよ。そもそもテメェが何を言おうが関係ねぇ。俺の住む街でガキまでも襲った。それがお前のくたばる理由。てことで、サヨナラだ」


 すると、少年は姿が消える。


 疾風迅雷。

 少年は一瞬で少女の懐へと入り込んだ。

 そして、少女の身体の前にあるを殴りつけた。


「ガ、ハッ!?」

 

 ボンッという炸裂音が鳴り響き少女は吹き飛ばされ何度も地面をバウンドし、いくつもの公園の木々を薙ぎ倒しながら十数メートル先で止まり、その場でぐったりと倒れ込んだ。


「うへぇ、まじか気絶してる。もしかして俺、手加減ミスったか? んー、多分違うな。想定よりコイツが弱かった、きっとそうだ。って、そんな事よりさっさとコイツ引き渡して帰らねぇとアイスが溶ける!」


 そして少年は気絶した少女をたわらのように抱え上げて、その場を後にした。



 しかし、その時。

 少年に抱えられ、少女の瞳が桃色とは違う、美しく紅い輝きを放っていた。

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