第3話

オレの嫁はそこら辺のオタク共が羨むほど可愛い。大きく瑞々しい瞳、晴天のように澄み渡った青い髪。時には厳しく時には優しく、俺が落ち込んだ時は俺を聖母のような優しさで包み込んでくれる。まさに理想的な嫁だ。


そんな女の子はいないって?

それがいるんだよ、ラノベの中なら。

なぜこんな話をしたのか…それは



始業式から1ヶ月ほどたった今、俺は自称進特有の5月に行われるテストに向けて、名倉と勉強しにカラオケに来ていた。

最初の30分はもちろん真面目に勉強していたが、ふと名倉がマイクを手に取り、パネルを操作しだした。俺も集中力が切れ、予約された曲を見ているとなんとそこには、とあるラノベの青髪ヒロインのキャラクターソングがあった。※その子は決してメイド属性を持っていたりしない。

冒頭の話はここに繋がる。

そこからあとはもう分かるだろう。カラオケルームに男2人…何も起こるわけもあり、どこからか取り出したペンライトを振りながら、泣きながらその曲を歌い、アニソンメドレーに励んだ。

もちろんテストは赤点だった。


テストの翌日、ラブコメに頭を犯されていた俺は

「そろそろ、俺の前にもヒロイン現れねーかな」

と、周りの目も気にせずおもむろに呟いた。

普通なら、周りから不審に見られて終わりだろう。しかし、俺の人生は普通ではないらしい。

それは俺が、名倉と一緒に帰っているときだった。ポジティブ系主人公になるために上を向きながら歩いていると、視界の端に青いものが見えた。

「悪ぃ、名倉。急用ができたから先に帰ってくれ!」

どぐんどぐんどぐん

工事の音か心臓の音か分からない音が脳に響いていた。それもそうだろう、おれが見逃すはずがない。あれはまさに俺が求める…!

気づくと、俺はとある家のインターホンの前に立っていた。人差し指がボタンに到達するまで5ミリ、4ミリ、3ミリ、4ミリ…。

ギリギリ残っていた理性が俺を引き戻した。

「また警察のご厄介になるとこだった…!」

帰ろうと、家に背を向けたその時

中から、見間違えるはずもない、オレの嫁である女の子が出てきた。

「ぁ、え?」

喉の奥から声とも取れない音が出てしまった。

そんな俺に構わず、嫁は開口一番

「不審者ですか?通報しますよ?」

何を言っているのか分からなかった。嫁がそんなことを言うはずがない。そんなことを思った次の瞬間、俺は彼女を腕の中に抱いていた。

愛おしさが込み上げ、髪を撫で、あまりの甘美な体験を目を瞑り、噛み締めていた。




俺は警察のご厄介になっていた。それもそのはず、単純に嫁に通報されたのだ。いや、理性のある今ならわかる、あの子はただの完成度の高いレイヤーなのだろう。

解放後、俺はあの体験を忘れられるはずもなく、もう1回体験するためにヒロインである本物の嫁に会いに行くことを決心した。

ということで、通常運行



ROUND3「異世界に転移しよう」


ラブコメは現実だけでは無い、異世界でも体験できるのだ。そのラノベの主人公は、深夜コンビニに向かっていると、いつの間にか転移したらしい。

「これなら俺でもできる…!」

善は急げ、その日の深夜俺はコンビニに向かった。横断歩道の前で3時間ほど待ってみるも、走馬灯が見えたりすることも無く、ただ時間の無駄だった。しかも補導されてしまった…。異世界はまだ早かったらしい。



その日の夜、その子にこの話をすると、嫉妬した様子を見せてくれた。









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男子校生でもラブコメが描けるか @sincoscossin

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