第2話 機張(キジャン)へ 修正版

※この小説は「倭城(わそん)」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


空想時代小説


 加藤清正の軍勢はほぼ2万。全てが陸を行くわけではなく、5艘の大型船が随行している。そこで、船がつける港をさがしながら海沿いを行軍することになった。十兵衛がつく隼人は先陣で、十兵衛の部隊は鉄砲隊である。隼人のすぐ後ろに位置して行軍している。

 釜山から1日歩いて、機張(キジャン)という浜へついた。釜山から5里(20km)ほどの距離である。船がつける入り江があり、浜全体を見渡せる丘もある。ここに館を造れば、水軍の基地として最適だと思われた。

 不思議なことに、ここまで朝鮮側の抵抗はほとんどなかった。途中、関所らしきものはあったのだが、兵は皆逃げていた。釜山に上陸した時に小西行長らの一番隊が圧倒的勝利を果たしていたので、それにおそれを抱いているようだ。民衆は、静観を決め込んでいた。ふだんの生活を保障してもらえるならば、今までの朝鮮の支配層である両班(ヤンバン)の統治より日の本の方がいいと思っているのである。加藤勢は進軍が順調なので持参した兵糧で賄うことができたし、民衆からの略奪を禁止していたからである。

 機張にしばらく滞在することとなった。丘の上に砦を造るための作業が始まった。清正公は近くの民衆を呼び、資材の搬入にほうびを与えることを約した。木材や石を持ってきたものに量に応じて銀子を与えるのだ。今まで両班に搾取されていた民衆にすれば、新しい統治者は歓迎すべきものであった。切り出した木材や石垣用の石をたくさん持ち込んできた。中には墓石まで持ってきた者もいた。

 飯は船に積んである米と現地で手にいれた魚である。機張ではウナギがよくとれた。地元民に聞くと、ウナギを細切れにして焼くのである。ウナギのまま焼くよりは火が通りやすく、味もおいしかった。それとカニ料理がうまかった。秘伝のたれにつけて食べると食がすすんだ。地元民は「飯泥棒」とよんでいる。

 7日ほどで、砦らしきものができた。十兵衛は、清正公の素早い動きに感心してしまった。仙台藩ならばいちいち上役の指示を仰がなければ先にすすまない。しかし、加藤家では現場責任者の判断でどんどん前へ進むのである。

 十兵衛は自ら石を積んだ。小頭の弥兵衛からは

「十兵衛さまはわしらの頭なのだから見ているだけでいいのに・・」

 と言われたが、加藤家は上の者も石積みに加わっている。その方が早くできるとわかっているからである。そこに十兵衛は仙台藩との違いを感じ取り、記録をつけていた。いずれ仙台藩が渡海してきた時に、小十郎に見せるためである。

 そこに第3軍の黒田勢がやってきた。黒田勢は10艘の大型船と20艘ほどの小型船で構成されている。水軍である。そこで清正公は、機張を黒田勢に任せ、次の城へと出立した。

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