練習

紫陽花

ラプレターからラブレターに

 突然だが、皆は筆まめな方だろうか?


 この場合の筆まめとは、PCの年賀状ソフトのことではなく、定期的に手紙や年賀状、ハガキやメールなど、なんでもいいから相手と文章でやり取りをするか、である。


 こんなことを聞いている俺は、はっきり言って筆不精だ。メールにSNSで手軽に連絡を取り合えるこの時代においても、ほとんど連絡を取らない。ぶっちゃけ普段から連絡を取る相手なんて、父、母、悪友1、悪友2、それから公式からの広告メッセという寂しいやつである。


 さて、話がそれたが、今回この質問をなげかけた理由であるが……特別深い理由がある訳では無い。


 高校2年である俺、居川宗太が、兼ねてより片思いを募らせていた意中の友人、クラスメイトの藤野栞梨にラブレターを渡そうと思ったからである。


 というわけで思い立ったが吉日。さっそく便箋を買ってきて、まとめきれずに2枚の紙につらつらと思いをしたためてみたのである。


 そして翌日、その手紙を藤野に


「読んでみてくれ」


 と手渡した。


 いきなりの手紙に不思議そうな顔をしつつ、素直に手紙を受け取ってくれる。便箋にそのままざっと視線を向けたかと思えば、くりりとした目がこちらに向いて


「ええっと、とりあえず読めばいいの?」


「ああ、頼む」


「わかったよ、授業始まるし、あとでね」


 と読み始めてくれる。


 またあとでと席に着くが、さすがに少し落ち着かない。授業中もそわそわしつつ、やっと終わったと、迎えた休み時間。


 居川くん居川くん、と藤野に声をかけられる。早速、答えを聞けるのかとちょっとドキドキしつつ藤野を見やれば、んっ、と差し出される昨日にらめっこした2枚の便箋で。


 そしていつもの調子で


「えとね、誤字が多いから、もう1回見直して、書き直した方がいいんじゃないかなーって」


 と突き返されてしまった。


 思わず受け取り、読み直してみればなるほど、確かに誤字脱字が多い。さすがに俺も舞い上がってたんだろう。勢いで書いたこともあって、普段よりもひどいことになっている。


 ありがとう、直してみるとノートに挟み、今日は一旦家に持ち帰って清書してみることにした。


 次の日、内容はそのままに、しっかりと辞書やスマホを駆使して誤字脱字がないかを確認した、清書済みの便箋を持って登校した。


「ううむ、宿題以外でこんなに文字を書いたのは中学の読書感想文ぶりだな……」


 ぺらりと自分で書いた手紙を読み直し、恥ずかしくなってそっと伏せた。


 なんだか隣の席の安田くんに心配をかけてしまったらしい、大丈夫かと声をかけられた。なんでもない、思い出し笑いだと言ったら笑ってなかったような……とつぶやかれた。


 さて、件の藤野はまだ出席しておらず、早く来て欲しい、渡したいなとじれったく感じながら、ちらちらと教室の入口を見てしまう。


 結局、ホームルームギリギリに彼女が登校してきたせいで、朝には渡せなかったが。


 ようやっと1限目が終わり、休み時間になったので、彼女が席を立つ前にと、手紙を渡しに向かう。


「藤野、昨日言われた通りに誤字脱字を直したんだ。もう一度読んでみて欲しい」


 と手渡した。


 待ってましたと言わんばかりに便箋を受け取り、にこにこと笑いながら大きく頷いて


「うん、わかった、読んでみるよ。あ、次の先生厳しいし、授業中は読むのは無理だね……ちょっとかかるかもだけど、まっててくれるかな?」


 と言ってくれる。


 昨日と同じようにありがとう、ゆっくりでいいからと言って席に戻る。


 本心としては、早く返事が欲しいところではあるけど、まあ急かすことでもない。


 しかし結局、午前の授業が全部終わっても、返事は貰えずじまいであった。


「ダメだったか……?」


 と思わず口をついて出てしまう。


 内心しょんもりとしながら、昼休みなので弁当を広げていると、隣のクラスの悪友その1、伊崎麗奈が弁当を手に顔を出す。


「やあやあ宗太よ、今日はこっちで食べるので席を貸すのだ〜ついでにからあげをよこすのだ!」


「おう、いいぞ。そして唐揚げは渡さんぞ」


「ええー!?宗太んちのからあげを私の胃袋が求めているというのに!」


「……いただきます」


 後半の言葉を無視しつつ、もさもさと弁当を食べはじめる。


 ふと、耳についた笑い声に、ちらと藤野の方を盗み見ると、友人と二人でおしゃべりに興じつつ食事をしていた。ころころと、楽しい!と表情いっぱいに伝えている姿に思わず頬が緩む。


 と、そこを目の前の騒がしいやつに見咎められてしまう。


「あー、まーたしーちゃん見てた!顔緩んでた!」


「む、声がでかい。食事中はしずかにしろよ」


「いーじゃなーい。まあ確かにしーちゃんは愛されるいい子だよ?でもいつまでも見てるだけじゃ意味ないよー?」


 まったく、こいつというやつは……


 わかっている、人の気も知らないで、と少し顔をしかめてしまうも、まあこいつと俺の付き合いも長い。というか幼馴染である。誠に遺憾ながら。


 おっと、勘違いしないでほしいのだが、こいつは俺に惚れてもいないし、俺もこいつといい雰囲気になったりなどしない。そもそもこいつは他校に彼氏がいる。そしてその彼氏こそ我が悪友その2である。


 ともかく、そんな関係な上、女子の嗅覚というか、恋バナセンサーにより俺が藤野に惚れていることにも気づいているし、こいつはこいつで彼女とも仲がいい。というかむしろ藤野とこいつが仲が良いからこそ、中学時代に同じクラスになった際に、俺が紹介されて彼女と友人となれたのだ。


「うるさいな。それに、俺も何もしてないわけじゃない。俺は俺なりに動いてみてるところだ」


「え!?なになに?告ったの?ら〇ん?メール?校舎裏に呼び出した?」


「ええい、食事中に騒ぐなというに!」


 思わず唐揚げを差し出してやれば、反射的に食かぶりつき、満足そうに味わいやがる。腹いせに駄犬伊崎の弁当箱からおかずを失敬するが、これ冷食だな、割に合わん。


「むぐむぐ……んぐっ、ん~!相変わらず宗太んちのからあげは絶品である!」


「ったく、大人しくできんのかお前は……」


「まあまあ良いではないか~!でもさー、宗太からあんなこと言われたら気になっちゃうじゃなーい、恋愛上級者である麗奈さまにとっては聞き逃せない話題なわけですよ、ほらほらーげろっちまえ~?」


 ……こいつにしゃべるのは面倒な気もするが、まあ、形としては告白したのと同義ではある。それに、上級者かどうかは置いておいて、身近に存在するカップルという意味では参考になる……いや、ならないな。藤野の系統と伊崎の系統が違いすぎるし、何よりこいつに対する評価は犬(駄犬または野良犬)だ。


 ふぅ、とため息をつく。面倒になって投げやりにうなずいてやり、食事を再開する。


「いやいやいや、そんなどっちとも取れるうなずきだけじゃわかんないから!え、マジで告ったの?へたれの宗太が?うっそだぁ」


「お前ほんと失礼でうるさいな2度と唐揚げ食わせてやらんぞ?……まだ返事をもらえたわけでもないし、言葉で言ったというか、言葉を渡したというか、文章を贈ったというか……」


「文章?何、自作のポエムでも送ったの?あいたたた?でも宗太っぽくはある?しーちゃんが喜ぶかは微妙だけど」


「違うわ!……いや、その、ラブレターを書いて渡したんだ」


「ほ!?」 


 からん、と手から箸を落とす伊崎。何だこいつは。汚いだろうが。


「ほー……やっるじゃぁん!」


 と、嬉しそうにべしべしと肩を叩いてくる。地味に背の関係で指先が当たって痛い。それよりはよ箸を拾え。


「ええい、食事中に騒ぐなと何度も言わせる、なっ!」


「ぎゃんっ!?うごごご………!!」


 べちぃっ!とデコピンによる制裁を加え、悶えるこいつを放っておいて、さっさと弁当を空にする。


 待てを覚えた犬よりも低能な可能性がある悪友が恨めしそうにこっちを1度睨んでくるが黙殺する。そして既に空になったこちらの弁当箱に気づき、悲しみの表情を浮かべ、うっすらと赤くなったおでこをさすりながら話しかけてくる。


「もー、めっちゃ痛いんですけどぉ……華の女子高生の顔に傷でも残ったらどうしてくれるんだー」


「はんっ、可愛らしさに欠ける。出直してこい」


「こ、こいつ、鼻で笑った上に好きかって言いよってからに……!」


 戦慄したような表情でこっちを見るのを無視し、状況を説明してやる。


「まあ、お前も知っての通り、俺は藤野に惚れているわけで。いよいよ俺も思いがあふれたというか、気持ちを形として吐き出したくなったというか……まあとにかく、気づいたら、勢いに任せて手紙を書いて、そんで藤野に渡したんだ」


「はぇー、やるじゃん。宗太は最後までアクション起こさずおともだち~って感じで終わるもんだと思ってたよ」


 もう一発いっとくか?お?っと中指に力を込めてやりつつ、しかし伊崎の言うことももっともだと今までの己を振り返ってみる。うむ、確かに、気づけば藤野を目で追いかけていると自覚した中三時代。そこから2年と4ヶ月、その間に行動に移したことは何もなかった。


「まあ確かに……もうかれこれ3年ちょっとか」


「ナチュラルに2撃目をチャージしないでおくれ……!でもそっかー、しーちゃんと宗太の出会いもそんなに前かーってあいたぁ!」


 弱めのデコピン連打で伊崎をあしらいながら、あうあう言う伊崎の言葉に何度目かのため息を吐く。


 まあ、自分でもここまで入れ込むとは出会った当初思ってなかった。今にして思えば、出会った時点で好感を抱いていたのだとわかる。伊崎とは違った意味で明るいし、素直で結構はっきりとものをいう姿は、平気で陰口を言う他の女子とは違って見えたし、とても新鮮だったのを覚えているし。


 あと普通に可愛いかったし。当時は小動物的な可愛さだったが、今は少しせも伸びて大人っぽくもなった。中身はあんまり変わってないけどな。あと、しっかり目を合わせて話してくれるのもポイント高い。


 ……そういう意味では、彼女を紹介してくれたこいつにも少しくらい感謝してやるべきなのだろうか。


 ……今度唐揚げを大量に差し入れしてやればいいか。


 と、そんな風にじゃれていると


「あ、れいちゃんっ、来てたんだ〜」


「んぉ、しーちゃんヘルプ!宗太が私のキュートなおでこを責めてくる!」


「貴様が食事中に騒ぐからだ。藤野、そっちの友達はいいのか?」


「あはは、相変わらずだね2人とも。っと、うん、だいじょぶだよ。それにほら、読んでって言われた手紙の話もできてなかったし」


 おっと、ここで手紙の話をしてくれるのか!


 伊崎のでこを攻めるのをやめて藤野に向き直る。って、あれ?


「うーんと、誤字脱字はなくなったけど、ね?もうちょっと、丁寧に書いたほうがいいというか……ちょっと字が汚すぎるかなって」


 と、渡した便箋をまた突き返されてしまう。


 受け取って見返してみるが


「……なるほど」


 確かに、書いては消してを繰り返した関係で紙も汚れているし、緊張からか線も震えてしまっている。これはちょっと……いや、だいぶ読みづらい。


「そうだな、気づかなかった。ありがとうな藤野」


「いいよいいよ。あっそうだ、れいちゃんもいるしちょうどいいね。久しぶりに3人で遊ぼうって誘いたかったんだ。ゴールデンウイークのどっかで予定立ててね」


「おー、いいじゃんいいじゃん!去年は冬休み都合つかなかったし、予定組もくも!」


「ああ、いいな。ゴールデンウィークは俺も予定ないし、いつでも行けるぞ」


「やった!じゃあさ、せっかくだから放課後にまた集まろ?駅前のサ〇ゼでいいかな?」


「おけおけ、いいよぉ、しーちゃんは今日委員会だっけ?じゃあ先に行って席とっとくね」


「うん、お願い。居川くんもいいかな?」


「ああ、大丈夫だ」


「ありがとねっ。じゃあ、また放課後にね!」


 そういって席に戻っていく藤野。こころなしか、足取りが弾んでいるようだ。すこしほっこりした。


 そして、それを見送ったあと、ぐりんっと勢い良くこっちを見る伊崎に思わずびくっとしてしまう。


「な、なんだよ」


「……字が汚い、だって!ぶあっはっはっは!」


 こ、こいつめ……!!


「ええい、笑うな、もう一発もらっておくか……?」


「わー!おでこに対する攻撃は協定違反ですー!」


 まったくもーとおでこを両手で隠しつつ、でもにやけ顔はそのままに茶化してくる。


「いやぁ、しかしお返事どころか字が汚いと突き返される場面に遭遇するとは……ぷぷっ」


「なるほど協定は破棄だな。というか結んだ覚えはない」


 と両手式デコピンの構えを取ってやる。こいつはここで仕留めねば……


「ちょ、マジなのはほんと勘弁!ごめんごめんって!」


 と慌てて手を振り降伏宣言をする伊崎に、今日1番の深い深いため息をついて手をおろしてやる。


 だがしかし、残念ながら、こいつの言う通りまた返事は貰えなかったのは事実だ。ううむ、藤野は俺のことをどうも思っていないのだろうか、とさすがに不安になってしまう。


「いやぁ、しかしまさかの場面ですなぁ。ラブレターのお返事どころかラブレターの推敲を、しかも意中の相手にされているとは」


「言うな。悲しくなるだろうが」


「まあまあ、嫌なら嫌ってしーちゃんなら言うし、ラブレターをもらったつもりもないかもしれないよ?」


「いや……流石にそれはないだろう?手渡しだし」


「んーまあそうだよねぇ。でも、ほんと、いじわるするような子じゃないんだけどねぇ?」


「それは俺もわかってるさ」


 そもそも、そういう割とはっきりものをいうところにも惹かれているのだ。まあ、小柄で可愛らしいところももちろん好きだが。あと、言葉だけでなく、感情を体全体で表現しているところも可愛いと思う。


「しかしまあ、1度目はともかく2度目ともなるとな……」


「え?2回目なの?」


「ああ、1回目は昨日渡したんだが……さすがにしょっぱなは俺も緊張というか、舞い上がってたみたいでな。誤字脱字が結構多くて……その時にも指摘を受けて、今日は書き直したのを持ってきたんだが……」


「改めて渡したら字が汚いって言われちゃった、と……ほーん……まあ、嫌そうとかじゃなかったし、もう一回、次は丁寧に書いて渡すしかないんじゃない?渡さないって選択肢はないんでしょ?」


 もちろんだ、言われなくともそうするわ、と返事をし、その場は解散となった。午後の授業まであと5分だったしな。


 そして、放課後には約束通りサ〇ゼに集まり、2週間後の祝日に遊びに行く予定を立てたのであった。なお、手紙についての話題は一度も出なかった。まあ、嬉しそうな藤野が見れたので俺としては満足だからいいんだが。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、指摘を受けた通り、何度も書き直したりした便箋は、お世辞にも綺麗とは言えない文字が並んでいるし、少々汚れてもいる。


 今日はしっかり気を落ち着かせてから、新しく用意した便箋に、ゆっくり丁寧に書き込んでいく。


 ついでに内容も見直すべきかと考えるが……いや、これが俺の気持ちだと、内容は変えずに行くことにする。


 また便箋2枚にしっかりと書き連ね、綺麗ではないにしても、読みづらくはない程度には整えて書くことができたと思う。


 うん、読み直してみたが、普段の自分が書くよりも丁寧に書けてるな。


 書けていると思う、のだが……


「ううむ、藤野の反応から、どう思われてるのかがわからないのがな……」


 そう、2度渡して、2度とも内容についてではなく、文字の綺麗さなどについて指摘されて終了である。これは下手すると、手紙に関して何も感じていない、俺のことについても、特になんとも思われていない。その可能性の方が大きいのではないかと不安になる。


 というか不安になってもしょうがないと思う。


「……いや、前向きに考えるべきだな。そう、ゴールデンウイークだ。おまけがいるとはいえ、遊ぶ約束もしているんだしな」


 そうだ、少なくとも、俺と一緒に遊ぶことを嫌がられたりはしていない。


 前向きにとらえよう。もしかしたら、本当にただ俺の字が汚すぎて読めなかったってだけの可能性もある。


 そう考えればいくらか気持ちが楽になった。まあ、もし3度目もダメで、それで気まずくなってしまったら……と考えないでもないが、まあ少なくとも友人関係即終了、とまではいかないはず……と楽観的に考えておくことにして、その晩は少し遅めの眠りについた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝


 いつもより遅く起きたが、それでもすっきりと目が覚めた。


 嘘です。緊張と不安を感じてあんまりよく寝れてないです。


 モヤモヤを払うように、朝食もそこそこに、普段よりも早く登校することにした。


 というのに


「で、なぜお前と登校せにゃならんのだ」


「いやぁ、流石に昨日の今日ですし?やっぱり気になるじゃあないですかぁ」


 と、にやけ面とともに、ゲスいことをのたまう伊崎に辟易しつつ、いや、まあ気にはなるよなと思い直す。


「まあ、もちろん渡すつもりだし、しっかりと書きあげて来たが」


「おおぉ、ほんと、あのなにも行動を起こさず、感情を表に出さない宗太が折れることなく連日行動に出るとは……」


「お前ほんとそのでこに穴開けてやろうか」


 きゃーきゃーと逃げ出す犬にも劣る愚者と別れ、まだ人の少ない教室にたどり着いた。


 そして、無意識に藤野の席に視線を向けていた。


 普段は元気いっぱいだが、割と朝が弱い藤野は、遅刻はしないぎりぎりの時間で登校してくることが多いので、まだいない。今日もまたあとで渡すしかないか、と便箋を取り出しじっと見てしまう。


「お、今日はちゃんと丁寧に書いてきたかな?」


 と不意にすぐそばからの藤野の声。


「うおっ……お、どかさないでくれ、おはよう藤野」


 思いのほか近すぐそばにある藤野の顔にドキッとしつつ、もちろん書いてきたぞ、と便箋を差し出す。


「うん、おはよう居川くん。ふむふむ……よし、今度はちゃんと読みやすいね!改めて、この、栞梨さんが読んであげよう!」


「あ、ああ……読んでみてくれ」


 軽い調子で言い、席に向かう藤野を見送りつつ、やはりこれは脈なしなのでは?とテンションが急降下しつつ、まあ、その時はその時だと授業の準備を進めていく。


 授業が終わりました、集中?できませんて。


 昼休みが終わりまして。唐揚げ?気づいたら食われてたさ。


 午後の授業が終わりまして……いやほんといつの間にだよ。


「……」


 どうも雰囲気に出ていたらしく、隣の席の安田くんから、昨日に引き続いて大丈夫かと心配されてしまった。


 大丈夫だ、問題ない。と返事をすればそれは大丈夫じゃないときの返しだよ居川君!?とのツッコミをもらいつつ、伊崎からも


「あー、どんまいっ☆」


 と面白半分に言われ全力のデコピンをお見舞いしてやり、抗議文を彼氏殿経由で受け取り黙殺し、結局音沙汰ないまま放課後を迎えてしまった。


 流石にこれはダメだなと肩を落としつつ、今日はもう早く帰ろうと、手早く荷物をまとめ、教室を出ようとした時


「あ、待って待って、居川くーん!」


「え」


 と、とたとたと藤野が小走りで来て声をかけてくれる。


 これは……どっちだ?と身構えていると、彼女の手には渡した便箋が握られている。


 ああ、そうか。これはだめだなと、再び肩を落としていると


「はいこれ。うん、すごく読みやすくなってるし、良いと思うよ。いやーでも、居川くんにこういうことで頼られるとは思ってなかったから、かなりうれしくなって張り切って何回も読んじゃって、ついついいっぱいダメ出ししちゃったよ!あ、でもー」


 と、口元に指をあてがい、ひとつ区切ってから


「手渡しする気なんだろうけど、誰宛かはちゃんと書いたほうがいいと思うよ?ほら、封筒とかに入れて、そこに書くといいんじゃないかな?それ以外は、うん。気持ちもいっぱいこもってるって感じで、すてきなお手紙だと思うよ!」


 とほんのり興奮してるのか、元気いっぱいに言われてしまった。


 ふむ


「……ああ、うん、ありがとう藤野。早速宛名を書いて渡すとするよ」


「それがいいよ!いやぁ、居川くんの告白が成功したら、お相手さんも一緒に遊びに行ったり、お話しできるといいね!」


「……」


 思わず口をキュッと引き結び、ああ、うんと生返事しつつ、少し待ってくれ。と断りをいれ、便箋とセットになっていた封筒を取り出す。


 そして、手早くボールペンで『藤野栞梨さんへ』と書いて、便箋を入れて。


「読んでみてくれ」


 と手渡した。


 あれ?と小首をかしげ、渡された手紙を思わずといったふうに受け取り、不思議そうな、きょとんとした顔でこっちを見てくる。うむ、可愛い。


 そして、封筒の宛名を見て


「えっと、なんで私の名前が……えっ、あ、わ、わたっ、あて!?ええっ……!?」


 と、やっと伝わったのか、藤野は顔を赤くし、わたわたと便箋を持った手を振り回し、手紙と俺の顔を何度も往復して見ていた。


「じゃあ、また明日な」


 と、俺は逃げるように教室を後にした。うん、俺ももういっぱいいっぱいだからな!




 ……その後がどうなったのかは……まあ、なんだ、ゴールデンウイーク、伊崎の機嫌が少し悪くなり、約束していなかった悪友その2が合流していたことで察してくれ。







 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ね、ねぇ!れいちゃんっ」


「んぉ?あれー?しーちゃんどったのよ?ほっぺがまっかよ?」


「……ら、ラブレターって、ど、どう返事すればいいのかな!?」


「……oh」

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