第3話 第二の殺人
捜査が進む中、第二の殺人が起こる。今度の現場は通天閣の近くにある地下街だ。刑事たちは午前5時現場に到着した。犠牲者は若い女性で、通天閣でアルバイトをしていたという。彼女の遺体もまた、首に深い傷を負っており、犯行には同じ凶器が使用されたと見られた。
「また同じメモが…」美咲は再びメモを見つめた。「二重の塔、影の中の秘密を知る者のみ生き延びる…」
「犯人は何を伝えたいんだ?」結城は眉をひそめながらつぶやいた。「このメモに隠された意味を解明しない限り、次の犠牲者が出るかもしれない」
藤堂警部は、過去の未解決事件を洗い直し、似たようなメモが使用された事件がないかを調べ始めた。同時に、美咲は通天閣の構造とその歴史を詳しく調査し始めた。
結城誠は、捜査で疲れた心を癒すために藤堂警部との囲碁を楽しむのが常だった。彼のオフィスには、古びた囲碁盤が静かに置かれており、仕事の合間に二人が対局を繰り広げることが日課となっていた。
ある夜、雨がしとしとと降り続く中、二人はまたしても盤を挟んで向かい合っていた。結城はいつものように冷静な表情を崩さず、藤堂はそんな彼をじっと見つめながら、一手一手に慎重に打ち込んでいた。
「最近、仕事が立て込んでいるな」藤堂が静かに言葉を切り出す。白石を手に取り、盤上に置くその動作は熟練のものだった。
「ええ、少しばかり」結城は黒石を盤上に置きながら、短く答える。彼の目は石の配置を鋭く追っていた。
二人の間には、しばし沈黙が流れる。だが、その沈黙が居心地悪いものではなく、むしろお互いの考えを深め合うための大切な時間であることを、二人は理解していた。
「囲碁ってのは、人生と似ているな」藤堂がポツリと呟いた。「一手一手が、積み重なって未来を作っていく。ミスをすれば、その影響は後々まで響くものだ」
結城はその言葉に、ほんの少し目を細めた。「そうですね。ただ、囲碁では自分の手で流れを変えられますが、現実ではそう簡単にはいかないことも多い」
「だからこそ、こうやって自分を見つめ直す時間が必要なんだ」藤堂は微笑みながら次の一手を打つ。結城はその手を見つめ、藤堂の言葉の意味を噛み締めた。
結城にとって、藤堂との囲碁は単なる娯楽ではなかった。警察官としての日々の緊張を解き放ち、内省する時間であり、また藤堂からの経験豊富な助言を受ける場でもあった。
ゲームは終盤に差し掛かっていた。盤上には、白と黒が複雑に絡み合い、どちらが優勢か判断が難しい局面が広がっている。藤堂は眉をひそめながら石を置いたが、結城はその手をすぐに読み取り、次の一手を打つ。
「見事だな、結城。いつの間にか腕を上げたものだ」藤堂はその手を見て、満足そうにうなずいた。
「藤堂さんのおかげです。まだまだ、学ぶことは多いですが」結城は控えめに答えたが、その目には自信が宿っていた。
「この勝負、次はどう出るか楽しみだ」藤堂が笑顔を見せた時、結城もまた、珍しく微笑んだ。彼らはまた一つ、互いに新しい何かを学んだのだと感じていた。
囲碁盤を片付けながら、二人は次の対局を約束した。結城は、次の捜査に向けて新たな力を得たような気持ちで、また日常の激務に戻っていくのだった。
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