第11話 暴走

その時、その場にいる全員、何が起こったのか分からなかった。

いや、正確に言うと分かった。

しかし、ウルドが何をしているのか理解が追い付かなかった。


食べるという行為、それは本来人間ならだれでもする生命活動。

しかし、目の前で行われている行為は本来のそれではなかった。


食い荒らす。

そう表現するべきだろう。

まるで、断食した後のよう。

緑色のモンスターを喰らう。

ただ、一心不乱に。


「ギギギィー」


必死にモンスターも逃げようとするが、、

喰らう。

不味い。


「ギィ」


喰らう。

不味い。


「ギ、ギ」 


「ギ」 バタッ


喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。

喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。

喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。喰らう。



喰らう。




「ウ、ルド…?」


リリー

その声からは恐怖が感じられる。


リリーなんでそんな目を‥

ボクは一体何を…


「ウルド落ち着け。大丈夫だ。ウルド正気を取り戻すんだ。」


ジン、せん、せい?


‥ッは、何でこんなことに…


先生の腕からは血が滴っていた。

モンスターを食べつくしたボクはいつの間にか先生に襲い掛かっていたらしい。


「ウル、お前何してんだよ!おかしいぞ」


アレックス。


「…おい。何で笑ってるんだよ。」


フェイ。

ボクは‥

笑ってなんて‥

手を顔に当てると口角が上がっている。

え、何で笑っているんだボクは。

そしてその手にはモンスターの血がたっぷりとついていた。

もちろん口にも。


「ッハ、ボクは‥」


「…ウルドもういい、一旦休め。話はあとで聞く。」


「……はい。すみませんでした。」




そのあとボクは自分の部屋に行ったら、急に疲れて眠ってしまった。

夢を見た。

またあの夢だ。

とっても悲しい結末の夢。





ボクは一体どうしてしまったんだろう。

モンスターを食べたところまでは、覚えている。

確かモンスターを掴んで食べようとしたけど掴めなくて、殴られてそれから夢中になって食べて‥‥

ダメだ。

そのあとが思い出せない。

頭の中に喰らえ。喰らえ。と

そんな声が聞こえてきて、ダメだ。

やっぱり思い出せない。

そればかりか怖い。

自分が自分じゃないみたいで。

分からなかったとはいえ、暴走してジン先生を傷つけてしまった。

みんなにも情けない姿を見せてしまった。

こんなことになるなんて‥‥



ガチャ


「ウルちょっといいか。」


「うん。」


手を引かれる。

素直に、ついて行くとみんながいた。


「「「ごめん」」」


「え、ボクみんなに謝られるようなことされてないよ。逆にボクがみんなや先生に謝らないといけないのに。」


「ごめん、ウルドわたし怖かったんだ。でも、ウルドは多分、自分が強くなる方法ずっとを考えてたんだよね。それで考え付いたのがモンスターを食べることだったんだよね。」


「ごめん。ウルおかしいとか言っちゃって。」


「ウルド、ごめんな。」


「みんな違う。違うんだよ。確かにモンスターを食べようとしてたけど、本当はあんなふうになるつもりじゃなかったんだ。でも、モンスターを食べたあたりから記憶がないんだ。」


「それって無意識でやってたってこと?そんなことってあるの?」


「わからない。ただあの時は必死で。。」


「今後はあまりやらない方がいいな。暴走するかもってことは頭に入れておいた方がいいぞ。俺もあの女モンスターの時に、みんなを危ない目に合わせたけど、それと同じになるからな。」


「うん。ボクも怖いんだ。」


「よし、この話は終わりだ。それでこれから夏休みは何か予定あるのか?」


アレックスは気が利く。

ウルドが明らかに落ち込んでいるのをみて、話をかえる。

みんなその事に気づきながらも素直に話にのる。


「私とミリーは、家に帰るかな。家に帰って顔を見せろってお父さんがうるさくて。」


狩人養成学校は夏に進級試験を実施し、夏明けから新しい学年になる。

これはモンスターの発生件数が関係しているとか。


「俺様もだな。」


「ボクは、どうしよう家に帰っても何もないし。家族には会いたいけど…」


「だったら俺と、修行しないか?俺は帰る所がないからな。ジン先生が稽古つけてくれる事になったんだ。しかも、衣食住全部ついて来るぞ。」


今回の進級試験をして力不足を実感したボクにとってジン先生が稽古をつけてくれ、

しかも衣食住付きとあらば、飛びつくしかない。


「じゃあそうしようかな。ボクももっと強くなりたいし。」


「わかった。ジン先生にも伝えとく。」


ずっと進級テストの事ばかり考えていて、みんなとこうしてしっかりと、喋るのは久々だった。

その事に嬉しさを浮かべつつ、気を遣ってくれるみんなに感謝しなければいけないとウルドは思った。

ボクが見ていたモンスタースレイヤーズにはこんな展開なかった。

ボクが行動したから物語が変わったのかもしれないが、ウルドは原作でも弱かった。

でも、これ程ではなかったしこのテストも難なく合格していた。

なのにボクはどれだけ努力しても、モンスターを食べていなかったら負けていただろう。

それにあの女モンスターも原作には登場していなかった。

あまりにも、物語と乖離している。

流れに身を任せるだけでは駄目だ。

(これはボクの物語だ。)



こうした決意を胸に、ボクの狩人養成学校での1年目の夏休みがスタートしたのである。


あれってテスト、合格なのだろうか?

そんな一抹の不安を残しながら。









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