第12話 夏休み
夏休みの使い方は人それぞれ、自分で修行するもの、家に帰るもの、遊ぶもの。
そして、ボクみたいに先生と修行するもの。
最もこれはボクたちだけみたいだが。
結局この3か月をどう使うか、そこが大事なのである。
ミーミン ミーミン ジー
ボクとアレックスは今ジン先生の別荘に向かっている。
何でも先生の別荘は山奥にあるらしい。
電車を乗り継ぎ山の中を歩く。
「しっかし、先生の別荘遠すぎだろ。一体何時間歩けばいいんだよ。俺たちもう5時間は歩いてるよな。あれか?もしかして、別荘につくまでが修行ってことか?」
「そんなことある?いやジン先生ならあるかも。」
ウルドの中でのジン先生は、鬼教官なのだ。
「お、あれじゃないか?」
その声で前を見ると、森の中にとても別荘とは言えないポツンとした小さな小屋があった。
なんともちっぽけで、何とか3人が生活できる程度といったところか。
(別荘と言っても、ジン先生の給料だったらこんなものか。)
予想を大幅に裏切られることになった2人は内心悪態をつく。
「お前ら別荘ってこんなもんかって思ったろ。」
どこからともなく聞こえてきた言葉に2人は素直に頷く。
「そうかそうか2人はそんなこと考えていたんだな。」
「ジン先生いつからそこに…」
モンスターが出る可能性があった為、十分周りには警戒していた。
その筈なのに、ジン先生はそこにいた。
2人の頭には疑問が浮かぶ。
「あ、ああこれが俺の異能だ。俺の異能は気配を消す。そして、俺が触れている物の気配も消せる。とは言え今みたいに声を出したり、殺気を出したりすると見つかる。だが、デメリットを抜いても強い異能だな。」
自分で言うのか。と思いながらもウルドは考える。
(いや、強いどころか1人で戦うことを想定するのなら最強かもしれない。ずっと異能を発動させておけば倒すことは出来なくとも死ぬことはない。強くないか)
そんなことは気にも留めずにジン先生はどんどん歩いていく。
(ジン先生腕大丈夫そうだったな。)
ウルドはあの後ジン先生には謝ったものの釈然としない気持ちを抱えていた。
「よし、ついたな。」
「今日からお前らには体術の修行をしてもらう。2人の異能は体術が基本となるからな。まずは、基礎体力からだ。お前ら今来た道走って往復してこい。夕飯までに帰って来なかったら飯抜きだから頑張れ。」
まさか今来た道をそのまま戻れと言われると思っていなかったウルドたちは困惑した様子で走り出す。
2人とも昼食を食べていないので夕飯抜きはきついのだ。
逆にそのことが功を奏して途中、何も出なかったのだが。
その日の夜ウルドは隣に眠るアレックスを起こさないようひっそりと布団からでた。
そして、走り出す。
山奥だからか星がとても綺麗に見える。
でも、ウルドにはそれを気にしている余裕はなかった。
アレックスと同じ様に修行しても同じ様に強くなるわけではない。
その事はこの1年で嫌という程分かった。
だからウルドは走る。
「おい、こんな夜遅くにどこ行くんだ。」
「ちょっと走りに行こうと。」
「止めとけ、モンスターが出たらどうすんだ。」
ウルドはその事をすっかりと失念していた。
「と言うよりこれ以上やっても意味がない。トレーニングはやればやるほど効果が出るものじゃないんだよ。まあ、大方お前はそんなこと分かっていても、体が動いたんだろうが」
「じゃあ、ボクはどうしたらいいですか?このままじゃダメなんです。ボクはもっと強くならないと」
「お前の異能の話をする。」
「いや、ボクの異能の話じゃなくてどうするれば強くなれるかを…」
「じゃあお前の強さの話をしよう。逆に質問するが、お前のこの先どうするつもりなんだ?断言する。このままじゃお前は狩人には成れない。いくら努力しようが無理だ。」
ジン先生は冷たくそう言いきった。
「いや、でも体力を高めたり筋トレしたり‥」
「それでも無理だ。お前も分かってるだろ。」
ウルドは分かっていた。
筋トレで筋肉は増える。
ランニングで体力はつく。
確かにその基礎の部分は大事だ。
でも、みんなと同じつまりこれからも狩人養成学校で進級していくためには異能の力が必要だということを。
自分の異能が一番効果があるのはモンスターを食べることだということはあの時直感的に分かった。
でも、ジン先生を傷付けたという事実とみんなから怖がられる、そして、自分が変わってしまう、今までの幸せが壊れる、そんな気がして考えないようにしていたのだ。
(やっぱり逃げられないのか‥)
「まあそうは言ったが別に狩人だけが道ではない。今からでも狩人目指すの辞めて普通に暮らす道もある。実際そういう奴もたくさん見てきた。悩むにしろ何にしろ今日は移動で疲れただろうし休め。」
「でも…」
(ボクは逃げていいのか。)
「今日は休め。だけどなウルドお前がそれを望むなら俺はお前を強くする。」
その言葉には説得力があった。
同時に使命感も感じられた。
(普通の暮らし‥)
その夜ウルドは揺れていた。
ウルドは前世で努力したことがほぼなかった。
努力をしたことがないということは打ちのめされることもなかった。
ウルドはこの世界で知った。
努力が報われないこともあるということを。
この世界は何の影響かモンスタースレイヤーズの通りには進んでいない。
もしかしたら、このままウルドは闇堕ちする未来も無いのかもしれない。
それならば、こんな辛いことしなくていいんじゃないか。とウルドは思う。
それと同時に考える。
もし、モンスタースレイヤーズの通りの展開が待っていた場合…
その場合、原作のウルドでさえ闇堕ちして改造される未来なのに、それよりも弱いボクがいくら頑張ったって意味ないのではないかとも…
結局その夜、ウルドが何かを決めることは無かった。
同時刻、アレックスは隣で眠るウルドのことで悩んでいた。
アレックスは、このまま今のようにみんな一緒で狩人になることが一番幸せだと思っていた。
両親が死んでからずっと、みんなで狩人になるのが夢だった。
ウルドが自分より弱い。
これは何となく感覚で分かった。
そればかりか、周りと比べても弱い。
定期テストでは誰よりも必死に努力して、ギリギリ合格していることはアレックスも知っていた。
そして、2年3年と学年が上がるにつれ求められる強さも飛躍的に上がっていくことも。
その時、果たしてウルドはついてこれるのかそんな疑問は前々からあった。
もし、これからもウルドがモンスターを食べ続けたら勿論話は変わってくる。
あの時から急にウルドの動きが変わったことに気づいていたから。
しかし、アレックスはウルドにモンスターを食べてほしくなかった
それは嫉妬などではない。
親友が親友ではなくなってしまうような気がしたから。
そんなことを考えているときにジン先生とウルドの会話を聞いてしまった。
最初に思ったのはウルは俺と一緒に狩人になるんだ。ということ。
でも、ジン先生に他の道もある。と聞かされた時ウルドの悩んでいる表情を見たら、なれない確率の方が高いものを目指すのではなく、普通に幸せに生きる道を歩んだ方がいいんじゃないかそう思った。
でも、それは今までのウルのしてきた努力を否定してしまう。
そもそも、こんなことを考えているが俺は何様だと。
アレックスは悩む。
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