第12話 電車

「服に合ってるね」


 今日の幼馴染は黒のワンピースを着ていた。

 シンプルなデザインだが、それを彼女の良さを引き立てていた。

 どんな場所にいっても相応しい服装でもあった。

 お洒落なんだけれど、かしこまった場所でもカジュアルな場所でも浮くことがない。


「ありがとう……」


 彼女はぶっきらぼうに言う。

 こちらを見ないけれど、ちょっとだけ頬に赤みがさしたきがした。


 俺たちは駅の改札をICカードで入る。

 本当は切符をかって渡そうと思っていたのだけれど、行先が分かってしまうのは面白くない。

 二人でいつもとは違う方向の電車に乗った。


 電車はとてもすいていた。

 手をつないで、隣同士の席に座るのは不思議な感じだった。

 車両は俺たちで貸し切りみたいだった。

 だれもいない車両。

 良く知った幼馴染。

 慣れない場所への遠出。

 なんだかとても不思議な組み合わせで、俺はまるで夢でも見ているかのようだ。


 もしかしたら、都市伝説のようにこのままどこか知らない町に運ばれてしまうのではないかと思うくらい、周囲はとても静かで俺たち以外の気配がしなかった。

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