第5話 放課後の図書室

 放課後、俺と幼馴染は図書室に向かう。

 なんだかんだ自由に過ごしていても一応、進学校なのだ。

 放課後に部活をしない生徒は、図書室や各建物にある自習室、または近隣の私立図書館なんかで宿題をやったりする。

 自習室は受験を控えた三年生がぴりぴりしていることが多いので、まったりと宿題だけを終わらせたい俺は図書室に行くことが多い。

 たまに、読みたかった小説の新刊とかが置かれているのもポイントが高い。

 夏はエアコンが効き、冬はとろとろとストーブが焚かれている図書室は他の自習室よりも居心地がよかった。


 俺は家に宿題を持ち帰りたくないので、基本的に図書室で終わらせていく。

 教科書を持ち帰るのがだるいので図書室で宿題を終えたら、教室まで戻ってロッカーに入れておけば忘れ物もないという素晴らしい方式だ。


 幼馴染は俺と一緒に図書室にくるが、たいてい雑誌とかをめくっている。

 数学だけは苦手で俺と一緒に宿題をやるが、その他の教科は勉強しているところを見たことがない。

 宿題をやってこないことを教師から責められている姿をみたことはないのでおそらく要領よく授業中にでもこなしているのだろう。

 数学だけが唯一、俺が彼女に勝てる科目だ。

 今日は数学の宿題がなかったので、幼馴染はパラパラと女子向けのファッション雑誌をめくっている。


「ねえ、勉強しないの?」


 俺はちょっとだけ苛立って意地悪な質問をする。


「だって、今日は数学の宿題ないし」

「宿題なくたって、苦手なんだから予習とか復習したほうがいいだろ。受験もあるし」

「数学って受験じゃつかわないし~」

「俺は普通に使うけど?」


 俺がそういうと幼馴染はびっくりした表情( ゚Д゚)をした。


「えっ? 受験って、私立文系に行くんじゃないの?」

「国立にいくつもりだけど?」

「小説家になりたいっていってたじゃん。あとは編集者とか」

「それは希望だけど、学費とか考えるとうちは国立一択」


 俺がまじめに返事をすると幼馴染は慌てた様子Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)だ。

 もちろん、彼女の成績の方がずっと良いので俺がめざしている国立大学も幼馴染ならば推薦で入れる可能性も高い。

 さらには、数学が苦手といってもまったくできないわけじゃないので普通の試験をうけても数学以外の科目でカバーすれば十分合格できるだろう。

 だけれど、彼女はだんだん青ざめている。


「先週の進路調査の用紙、私立文系で出しちゃった……」


 うちの学校は国立文系志望コースと私立文系志望コースは同じクラスになる可能性がないわけではないが、同じコースにいたほうが同じクラスになる確率は高くなる。

 それに気づいた彼女はがばっとたちあがる。


「先生に進路調査の用紙、いまから書き換えられないか聞いてくる!」


 そう言って、図書室をでて廊下を走っていくのが見えた。


 いつもなら、宿題をやっている俺にちょっかいをかけてくるのがうっとおしい(なんの理由もなく俺の頬をつついたり、机に突っ伏しながら俺を見つめたり結構うざい)、今日はそんな幼馴染がいなくてとても宿題がはかどった。

 だけれど、なんだか少しだけ寂しかったので、進路調査の変更の交渉と廊下を走ったことによるお説教をうけている彼女をしばし教室でまつことにする。


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