第4話 昼休み
昼休み、俺たちは一緒に学校の裏庭に向かう。
お昼は、幼馴染のお手製の弁当だ。
もし万が一、幼馴染が寝坊をして弁当を作れなかった場合は俺が購買でパンを購入するのが約束となっている。
昼休みに購買でパンを買うのは戦争なので避けたいところだ。
もちろん、朝のうちに事前にパンを注文して教室まで届け出もらうというシステムもあるが、その場合限定品は手に入らない。
チョコレートメロンパンとか、グラタンパンとかなんだかちょっと洒落ていておいしそうなメニューは通常の注文用紙じゃ買えない仕組みだ。
直接購買にいって、その日偶然に出会えたときにだけ買える限定メニューだからこそ、より人気が高くなる。
一部の生徒の間ではより購入難易度の高いものを一か月の間にどれだけ買えたかポイント制にして競っている。
さらに裏ではそのレースに誰が勝つかと、賭けまで行われているという。
そんな争いに加わらなくていいのは本当にありがたい。
幼馴染が弁当を作ってくれていなければ、俺は今頃あの血で血を洗う争いの中でぼろぼろになるまで競い続けていただろう。
「あ、ごめん。箸入れてくるの忘れたみたい。私の分のお箸しかない……」
弁当の包みを開けるや否や、幼馴染はしまったという顔をする。
「いいよ。購買で買ってくるから」と俺が言おうとしたのを遮って、
「私が食べさせてあげるから、今日だけは我慢してね」
そう言って、幼馴染はすばやくお弁当のメインのおかずである唐揚げを箸でつまみ俺の口元に持ってきた。
ショウガと醤油、そしてガーリックパウダーに一晩漬けたくせになる味。
美味しいのは食べる前から分かりきっている。
ニンニクではなく控えめにガーリックパウダーにしてあるのがまた憎い。
ニンニクチューブとかと違ってガーリックパウダーだと匂いがそこまで強くないのだ。
だけれど、この状況は少し恥ずかしい。
俺が口を開くのをためらっていると、
「ほら、あーん。ってして?」
俺の唇にジューシーなものが触れる。
もちろん、唐揚げだ。
いつまでもこんなことしているわけにはいかないので、仕方なく口を開ける。
美味しい。
幼馴染はまた料理の腕を上げたらしい。
「美味しい?」
いつも聞かれるけれど、俺はコクコクと頷く。
「よかったあ」彼女が笑顔になる。
心から嬉しそうな笑顔だ。
子供の頃は地獄だったのを思い出す。
ままごとで彼女の作った泥団子を食べさせられたことがあったから。
その後、漫画の『ガラスの仮面』を読んで舞台の上で泥団子を食べる主人公の気持ちを俺以上に分かる人間はいないと思った。
この前、無料で読めるアプリで読んでめちゃくちゃ泣いた。
それと比べれば今の彼女の弁当は天国だ。
本当に美味しい。
いや、食べられるからではなく、本当に高校生が作ったとは思えない味だ。
そんなこんなで、彼女のお手製のお弁当を彼女手ずから食べさせてくれるという羞恥プレイは終了した。
途中で、彼女の箸で食べるということは間接キスになるのではと気づいたことは記憶の奥底に封印した。
さて、次は彼女の番だ。
俺が食べた箸を自ら自分の口に運ぶなんて、実は俺のことが好きなんじゃないだろうかと思う。
自ら間接キスを狙って箸を忘れてきたのだとしたら、俺に惚れているし、少々変態気味ではあるが可愛いところもある。
これならば、おあいこだし、俺より彼女の方が恥ずかしいことをしていると言えるだろう。
俺は彼女が俺との間接キスを意図的に始める瞬間を見ようと彼女を凝視する。
自分の分の弁当の包みを開いた彼女は、弁当を美味しそうに食べ始めた。
その手にはお弁当ようの小さなフォークが握られていた。
「あれ、箸は一膳しかないんじゃないの?」
俺がたずねると、彼女は涼しい顔をして、
「箸はね。でも、ちゃんとデザート食べるようにフォークもあるの♡」
そう言って、彼女は余分にあったタッパーを開けるとそこにはカットされた梨が入っていた。
フォークで梨を突き刺した彼女は、俺に再び「はい、あーん♡」という。
もちろん、俺には口を開き今度こそガチの間接キスを受け入れるほかなかった。
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