第3話 夫婦登校
「ほら、起きて! 学校行くよ」
朝から、幼馴染がなかなか目覚めない俺に業を煮やしたため、馬乗りになって揺さぶり起こしてきた。
運悪く俺の股間はある部分に触れてしまい……なんてことはなく、俺の幼馴染は俺の部屋まで来ないで、玄関から俺に呼びかけていた。
「あら、
母さんが呑気に話しかけているのもお決まりで、俺が眠い目をこすりながらリビングに降りていく頃には俺の幼馴染は、バターと自家製マーマレードジャムをたっぷりと塗ったトーストをほおばり、リントンズのミルクティーを飲んでいるところだろう。
そうはいっても、俺の分のトーストにもきっちりと隅までバターを塗ってくれているという、あいつにもいいところはある。
俺の姿を見たとたん、あいつは残りのトーストを一口で平らげて、
「ほら、行くよ。今日は○○だから遅れたくないの」
(ちなみに○○はその時によって任意の言葉が入る。週番だったり、小テストがあったり理由はいろいろだ)
「いや、お前ひとりでいけよ」
「えー。でも、大事な幼馴染を見捨てるわけにはいかないでしょ」
そう言って、俺の手を引くものだから俺は平日にゆっくり朝ごはんを食べられた試しがない。
手を引かれるままに、仕方なく食卓のトーストだけを片手に彼女と学校に向かうのだ。
「ほら、こぼしてるっ」
彼女はそういって俺の頬にハンカチを差し出す。
俺は子供のようにされるがままに彼女を受け入れる。
前に逆らったときは、幼馴染の機嫌が一週間ほど悪かったのでそれ以来、あまり逆らわないようにしている。
学校に近づくと、見知った顔と通学路で合流したりする。
「よお、お二人さん。今日も一緒かい?」
「あ、おはよう
挨拶をしてきたのは、ちょっとだけチャラいクラスメイトだった。
こいつはいつも俺たちの関係をいじる。
悪い奴ではないのだが、誰に対してもちょっとだけ軽い。
といういか、誰に対しても軽く深くかかわりすぎないようにしているのがポリシーだというのが透けて見える。
陽気な人間というレッテルを自ら貼っているが、本当のところはかなり根がまじめなやつだということを俺は知っている。
(小学生のころ、図書室にあった心理学の本を片っ端から借りて読破いたことを図書委員の俺だけは知っているのだ)
「いや~、朝から夫婦ですな」
「意味分からない」
「そのままじゃないですか」
「俺たち未成年だぞ」
「いや、そうじゃなくておあついといいますか。いや、すっかりなじんだ熟年夫婦の貫禄といいますか」
「私たち、付き合ってないけど?」
彼女が急にツンとして釘をさすと、クラスメイト1君はちょっとだけしゅんとした。
だけれど、次の瞬間には、
「ほら、あれみてくださいよ。あの二人もカップル登校。いや初々しいですな~」
そういって、通りの向こうを歩いている男女を指さす。
「登校デートっていいですな~」
クラスメイト1君は心底うらやましそうにつぶやいた。
だけれど、俺の幼馴染はちょっとだけ拗ねて、
「デートじゃないもん」
と小さな声でいって、足元の小石を蹴っ飛ばした。
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