第2話 夜のコンビニ

「ねえ、コンビニ行かない?」

「デートの誘いとしては失格」


 幼馴染である彼女は残念そうな顔をした。

 別にデートに誘ったつもりではなく、今までの習慣というか。

 ただ、夜の散歩をしたかっただけなのだが。


 だけれど、失格と言いながらも彼女はキャミソールの上に薄手のパーカーを羽織っていそいそと準備をしている。

 ああ、言い忘れたけれど幼馴染で家が隣なので彼女は良く俺の家のリビングでくつろいでいる。

 何なら俺の母親とも仲良くて一緒に夕飯を作って食べて行ったりしている。

 そんないつも通りの食後のだらだらとしたリラックスタイムの延長だった。


「ほら、行くよ!」


 気が付くと彼女いつもと変わらず俺の手を引いている。

 子供の頃から変わらない。


「えっ、行くの?」


 俺がちょっと驚いて言うと。


「当然でしょ」

「でも、デートの誘いとしては失格なんでしょ?」

「いーの。デートの誘いとしては失格でも、一緒にコンビニ行くのは好きなんだもん♡」


 彼女はそういって、玄関の外にふわりとでていく。

 いつもの見慣れた道が夜のせいで少しだけ神秘的に見えた。

 ショートパンツにパーカーの彼女はしなやかで白く輝いていて、まるで夜の世界を楽しむ妖精のようだった。

 その可憐な姿に思わず、ほかの男の視線が気になる。

 もちろん、今ここにいるのは俺と彼女だけだ。

 だけれど、きっとコンビニに行けば色んな男がいるだろう。

 誰にも見せたくない。そう強く思った。


 彼女を守れるように、俺は彼女に引かれていた手をほどいた。

 彼女は驚いたような不安なような、泣きそうな顔をしていた。

 俺はそんな彼女の表情を無視して、彼女の肘と俺の肘を絡めた。

 絶対に逃がさない。

 何があっても俺が守る。

 そんな意思を示したつもりだ。


 一方で、俺は隣で彼女が頬を赤らめていることにはまったく気づけなかったのである。

「あのときはすごく心臓がどきどきしていたんだから」

 そう聞かされたのはずいぶんあとのことであり、そのとき俺の心臓は早鐘をうっており、彼女の鼓動にまで気が回っていなかったのだ。

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