幸運
翌朝、いつものように自分の教室に入ったが、誰もいなかった。僕はただ一人、席に座った。
僕は少し折れた参考書を取り出しながら、昨日の価値について考えた。
自分の本質、は分かったけど、罪を犯してしまった。人でなしだった僕のことを思い出すと、タイムマシンが欲しくなる。人間でいたいと思った僕は、あの後、ゴキブリを逃がして、床をちゃんと拭いた。それでも、もちろん、罪を償ったとは思っていない。
一日にお米を三人分食べるくらい働けば、罪滅ぼしになるのだろうか。いや、全然足りない。僕はどうしたら罪を償うことができるか必死に考えた。教室にクラスメイトがぞろぞろと入ってきても、マシンガントークでつまらない話を聞かされた時くらい、気にしなかった。
僕は、人助けをしようと決めた。同時に、教室が多くの人で埋められていたことに気付いた。ホームルーム開始のチャイムが鳴った。何も面白くない時間が流れていく。人助けをするために勉強は必要ないか、と思いながらこの時間を過ごした。
やっぱり授業の時間は、あの夏の夜に見たペルセウス座流星群のように一瞬で過ぎたが、その流れ星のように希望を抱きかかえていなかった。しかし、何も抱きかかえていなかったわけではない。教師のエゴだけは密かに腕の中で生きていた。また、それを時々生徒にさり気なく押し付けていた。
昼休みに食べたコンビニのお弁当と一緒に、午後の授業の時間も消化した。
教室を掃除している人のことを当たり前に思いながら、学校を出た。
家の中に入ろうとしてドアを開けると、鍵が掛かっていなかった。無職の人くらい呆然と下校していた僕は少し、驚いた。
玄関にあった靴から、お母さんが家にいると分かった。
靴を脱ぐと、すぐにお母さんが僕の前に来た。
「おかえり。進太、落ち着いて聞いてね。お母さん、離婚したの」
「え。なんで」
「うーん。深くは話せないけど、簡単に言うなら価値観の違いかな」
僕は背筋が凍った。そして、氷のように固まってお母さんのことをじっと見た。なんで今更。頭が、鳥のフンで埋め尽くされたみたいに、真っ白になった。
僕は声を振り絞って、「そっか」と一言だけ出すことができた。
「夕飯、出来たよ」
「ほら、シャワー浴びなさい」
「おやすみなさい、進太」
僕は、二人だけで過ごすことになったこの家が以前よりずっと広いなと感じた。つまり、狭い家に住んでいるというコンプレックスがほとんど解消した。
とても幸せだ。
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