紫色のシャクヤク
僕は自分のクラスに戻り、何事もなかったかのように自分の席に座った。
もやもやしたまま、適当に授業を受け続けた。そしてすぐ昼休みになった。僕はそれが通用するくらいの底辺高校に通っている。
僕は鮭が入ったおにぎりと、焼きそばパンを食べた。もちろん一人で。
僕はロングホームルームの時間がほんの少しだけ、気になっている。もしかしたら、今朝、電車の中で感じたあの人への「違和感」が何なのかわかるかもしれない。
さっきのように五時間目は適当に受けた。
ロングホームルームが始まると、先生はクラスのテレビにパソコンを繋げて、動画を流した。
その動画の題名は「重い障害を乗り越えて生きている一人の英雄」であった。
生まれつき下半身が動かなくて、幼少期に両目を失明してしまった男性の話である。この人には両手しか頼りになるものがなく、とても辛い生活を送っているようだ。しかし、家族や周りの人たちが支えてくれたおかげで、ご本人は幸せな人生だと言っていた。簡単にまとめるとこんな感じだが、本当はこんな感じでまとめられない。
この動画は三十分続いた。その人の不自由すぎる生活が、僕のつまらない人生を否定しているように感じた。
僕は悲しさと怒りを混ぜて作ったオーロラソースみたいな気持ちになっていた。
僕だって辛いのに。いや、彼に共感しなくてはならないのは分かっている。
でも今は自分のことで精一杯だ。僕も彼のようにたくさんの人から心配されたい。クラスの人はもちろん、家族だって僕が猫を被って生活しているから何も気にかけてくれない。彼みたいに生まれたときから自動的に助けてもらいたい。こんなことを思った僕を、誰かは最低だと非難して、ある人は利己主義者だと揶揄する。ああもうなんでも良い。
チャイムと同時に僕は教室を出た。さっさと学校を出た。
寝っ転がった道をずかずかと歩いた。夕日で汚くなったこの道は、とても美しい。だってこの道を歩いたおかげで、僕は被害者面をすることが許されるからだ。
そんな道に、一匹の黒い物体がいた。ゴキブリだ。
僕は踏み潰した。
駅についても、いつもと変わらない。
電車に乗っても、いつもと変わらない。
僕はこの日常が大好きだ。ずっと続けば良いのに。
しかし僕が乗っている急行列車は、いつもより早く感じてしまう日常を、さらに短くさせた。
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