第6話 夕飯後に二人でテレビを見る

 翌日の夕飯後。

 俺はリビングにとどまっていた。


「お、慶太珍しいな。いつもはすぐに部屋に戻るのに」

「まあ……」


 食後のコーヒーをすすりながら言ってきた父さんに俺は曖昧に頷く。

 テレビから流れてくる騒がしい芸人達の掛け合いを聞き流しながら俺はスマホをいじり時間を潰す。

 ぼふんとソファが沈んだ。

 視界の端だけで捉えるように顔を動かすと俺の隣に座ったのは葉月だった。


「……」

「……」


 昨日あんなことがあって会話なんて出来るはずもなく俺と葉月はそれぞれ無言でスマホをいじり続ける。

 そうしていること数分。

 時刻は21:00になった。

 同時に始まった番組に俺と葉月は顔を上げる。

 黄色と黒がテーマカラーの大喜利番組だ。

 定期的に行われている人気の特番で大勢の豪華芸人達が大喜利のうまさを競い合う。

 俺は最近めっきりテレビを見なくなったが、この特番だけはいつも見ている。


「何かと思えばテレビの特番か。そういえば慶太この番組好きだったな」

「あ、そういえば葉月もこの番組いつも見てたね~」


 納得した様子で話すそれぞれの親。

 それを聞いて俺は思わず隣に視線を向けると、葉月と視線がぶつかった。

 気まずさから視線をそらすと、ぼそりと葉月の声が隣から聞こえてきた。


「……好きなの? この番組」

「まあな」

「今日は誰が勝つかな」

「……ホリケン」

「ふーん、なるほどね……」


 会話がそれきり続かないことに疑問を覚え俺は隣にちらりと視線をやる。

 葉月はいつものようにぼんやりとアナウンサーのルール説明に耳を傾けていた。


「……葉月は誰が勝つと思うんだよ」

「え、っと……バカリズム?」


 俺の発言が意外だったのか、ぱちぱちと数回瞬いた葉月は有名芸人の名前を口にする。

 まあ、バカリズムいつも強いからな。

 好奇心を満たした俺はそれきり黙り込み、テレビ画面に集中する。

 葉月もスマホは脇に置いてテレビをじっと見ていた。


「なんか二人、きょうだいみたいじゃない?」

「そうだね」


 なんていう両親の会話が背後から聞こえてきてむずがゆい。

 視界の端の葉月も居心地悪そうに体をよじっていた。

 ともかく。

 今日も大喜利は面白かった。

 俺も葉月も両親もぷっと同時に吹き出したり、唸ってみたり、敗退のかかった場面で応援している芸人が回答ボタンを押すと息をのんだり。

 当然合間に挟まるCMでは、多くはないが感想を交わした。

 あれが面白かったとか、あの人はやっぱり天才だったとか。

 残念ながら俺と葉月の優勝予想はどちらも外れてしまったが、やはり例の特番はとても面白かった。

 番組が終われば俺たちはめいめいに解散し俺も葉月も自室に戻る。

 ベッドにつく直前、水を飲むために階下に降りると、俺は葉月とばったり出くわした。

 どうやら葉月も水を飲みに来ていたようで自室に戻るとこらしい。


「……」

「……」


 いつものように会話はなく会釈だけしてすれ違う。

 俺はなんとなく口を開く。


「おやすみ」

「あ、……うん、おやすみ」


 葉月も不意を突かれたのか、やや戸惑った様子ではあったもののそれだけ言って戻っていった。

 後ろ姿だったから確信は持てないが、葉月の口角がほんの少しだけ上がっていたように思う。

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