第12話
落ち着いた日を送っていたある日、
僕は仕事でミスをした。小さいミスは日常茶飯事だが、この日は少し大きく上司にも詰められ、その詰め方がいつも以上だった。
帰宅できる精神状態でもなく、
会社近くの駅のホームの待合室で立ちあがれず数時間が経とうとしていた。
すると、音羽から連絡が来た。
いつもする『帰るコール』の時間より2時間程遅くなっていて彼女も少し胸騒ぎがしていた。
でも僕はこの電話に出れずにいた。
すると、次はLINEが来た。
「遅くなる?」
画面を開いたままなので『既読』が着く。
「見てる?返事貰えそう?」
さらに既読だけになると、
「…心配してるよ。」
と来た。
僕は、『ごめん』とだけ送った。
すると、即また電話が鳴った。
――――――『奏、いまどこ?』
『駅。』
『なんかあった?』
『帰れない』
『どうして?』
『動けない』
『待ってて。すぐ行く。』
『いい。迷惑かけたくない』
『もし逆なら?』
『…男だなって思う。位置情報見て刺しに行く…。2人とも殺す。』
『でしょ?同じ。』
―――――――――。
何分経っただろう…。
改札まで歩けず、改札少し前の待ち合いに居た。
そこに音羽が歩いてて僕の隣に座った。
…何も言わない。ただただ僕を抱き寄せて頭に顎を乗せて、頭を撫でてくれた。
今の僕に言葉は重荷。
話す事さえ出来る状態ではない。
それを音羽は感じ取ってくれていた。
――――――暫くそうしてくれていた。
そして音羽から、
「お腹減ってない?」と優しく聞いてくれた。
「自分で無理」
「それはいい。」
「…寝たい。」
「お家帰ろ。」
「うん」
「歩ける?」
立ち上がろうとした瞬間、意識が遠のいた。
「
遠くで音羽が僕を呼ぶ声が聞こえる。
そして…音羽は僕のカバンのポケットに入ったあるものを見つけてしまった。
「…奏。もういいよ。わかったよ。」
―――――――――――――――。
「音羽…。」
「…奏??」
「音羽…喉乾いた。」
「ちょっと待ってて。」
――――――――――――。
状況が掴めないまま、重だるい体を起こして
視界の中の音羽の頭を撫でた。
「奏、なんで言ってくんなかったの?」
「……言わない。」
「もし逆なら?」
「追いかける。地獄であっても。」
「追わなくてごめん、」
「お前に終われたらまた死ななきゃいけない。」
「え?」
「お前は生きてて。」
「嫌だよ…」
僕は少しだけ音羽に微笑んで、体に繋がった管を引き抜いた。
音羽は驚きもしない。
僕は後ろに回って彼女を包み込んだ。
「お前が死んだら二度とお前を抱けなくなる。そんな地獄は耐えられない。だからお前はこうやって俺を引き戻せ。いいな?」
「戻ってきて。」
意識がフワフワする中、音羽をもっとしっかり感じたくて強く…強く…抱きしめた。―――――。
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