第8話

かえれる?」少年しょうねんたずねた。

かえれるはさすがにいすぎました。でも、なにかっかかるんですよね……。わかりかけてきたというか……。いまおもせそうだった。ここまでてました」おれのひらをかおよこあたりでひらひらとうごかした。

おもせない。なにしてたんだろう」おれった。

かえるってどうやって?」かれいた。

「え? どうやってって……たしかにわれてみればどうやってですかね?」

 やはりおれ大切たいせつなことをわすれている。それもおれにとって致命的ちめいてきなこと。しかも、わすれていることがえているがする。もう一度いちど記憶きおく辿たどってみる。さかさま、ネックレス、太陽たいよう、レンズ、事務所じむしょ忘却ぼうきゃく……。

 どこにいて、なにをしていたのか。会社かいしゃ事務所じむしょにいた。そうだった。ボーッしていたところに上司じょうしはなしかけてきて……。

 そのまえは、なにをしていた。ボーっとするまえ……。まどそと景色けしきながめていた。せみいていた。りつける日差ひざしはつよく、アスファルトにちたかげがいつもよりくて……。

きみ太陽たいようかげちているところにもどりたくはないですか?」

 少年しょうねんつきげていた。じいっとレンズでつきている。

「べつにぼくつきているだけでもう充分じゅうぶんだからいいや」

「そのレンズで、また太陽たいようたくないですか?」おれった。

「うーん。もうどうでもいいかな」かれった。

「でも、さっき太陽たいようたいってってたでしょう?」

「どうだろう。すくなくともつきひかりやさしくて、これはこれでなんかいいんだよね。つづけてもなみだないし」

本当ほんとうに? 本当ほんとうにそれがきみのやりたかったことなんですか?」おれかれ横顔よこがおた。

「じゃあ、くけどさ。どうやってかえるんだよ! かえかたもわかんないくせに」かれ怒鳴どなってった。かれおおきなこえはかぼそくふるえていた。

 おれかれ言葉ことばをなにもいていなかった。

かえかたがわかった」おれった。

 おれかれ横顔よこがおのほうをていたが、そのじつなにもていなかった。

 おれおもしていた。ボーっとするまえおれまど景色けしきながめていた。つかってまわらないあたまで、この仕事しごとが、このみちが、この人生じんせいが、本当ほんとうにこれがおれのやりたかったことなのかとかんがえていたのだ。

 そして、「おれのやりたかったことって、本当ほんとうはいったいなんだったっけ?」という疑問ぎもんおれをこの浜辺はまべみちびいた。

 その質問しつもん少年しょうねんころのすっかりわすれてしまったはずのおれいてみたくて、おれはここにたのだった。

かえかたわかったの?」かれった。

いまわかりました。かえったら、きみのやりたいことってなんですか?」おれった。

わなくてもわかるでしょ。きみぼくなんだから」かれすこわらいながらった。

「そうですね。いまわかりました」おれすこわらってった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る