第二話『反感覚的現象』

 電池男『ビリー』は、猛火利増根もうかりますね原子力発電所内にある別の実験室に移され、身体検査が続けられていた。今度の実験室の測定器やアームは全て、高エネルギー耐性に優れたもので、さっき壊れたものとは比べ物にならないくらいにゴツい。そしてビリーは前回と同様、大人しくベッドに横たわっている。強化ガラスの壁の方はさっきよりも随分と厚い。


 天井からぶら下がった無数のロボットアームが、八岐大蛇ヤマタノオロチのごとくビリーを四方八方から睨み……

 その先から、緑色のレーザーを一斉掃射した!!


「くっ、こいつはちと痛そうだな」

 ビリーはそう言って歯を食いしばる。

 そしてレーザーを全身で浴び……


\\\\\キーンボゴーン!!!!!/////


 視界の全てが真っ白になるほどの超新星爆発スーパーノヴァ

 辺りが元の光量に戻るまで、約十秒もかかった。 


「うおおおおおっ!!!!! 今の光はすごいのぉ! 大鐘社長、計測できたか理論?」

 ヘンテコな語尾でそう尋ねるのは天才物理学者、亜鈴状一石あれいじょうかずいし博士、の。その髪は、ビリーのビリビリのせいでチリチリアフロになった大鐘大介おおがねだいすけ社長に負けず劣らずの天然クルクルパーマで、異なる点と言えば、その色が銀一色であるところくらいだろう。

「おう、亜鈴状博士! もうすぐ数値が出ると思うぜ!」

 大鐘大介社長が見た、測定器の表示は……


〈2.751・10^24J〉


「おおおおお!!!!! 二・七五一に掛けることの十の二十四乗ジュール、だと理論!?!? こここ、これは地球が一年間に太陽から受けるあらゆるエネルギーの総量に匹敵する理論!!!!」

 亜鈴状一石あれいじょうかずいし博士は、子供のように目を輝かせて興奮している。

「いや亜鈴状博士、その数値すら遥かに超えているみたいだ。測定器はカンストしてる!」

「なるほど、そもそもこんな数値は想定されていないと言うことか理論……恐るべし。あの男の名は……ビリーと言った理論?」

「そう、ビリー・ビリルビン。通称だ」

 大鐘大介社長がそう言って強化ガラスの向こう側へ目をやると、ビリーは握り拳から親指を一本突き立てて、なんとも涼しい顔をしている。

「大鐘社長、君はビリーをどうするつもりか理論?」

「亜鈴状博士、俺はこいつを……発電に使ってみようと思う!」

「発電。そうか、それは名案だ理論。だがビリーがその計画に協力するとも限らない理論」

「そこのビリーがダメならに頼めばいい。それに亜鈴状博士、誰がいつビリーでと言った? 俺はビリーを黒音くろおん産業に連れて行って複製クローニングするつもりだ。黒音黒音くろおとくろね社長とは仲が良いからな」

黒音くろおん産業!? 本気で言っておるのか理論!? わしのような、亡くなった科学者やら著名人やらを、生前に保存した遺伝子を使ってクローンとして復活させては、彼らの頭脳や人気を金儲けに利用している企業理論! 大鐘社長、君も禁忌を犯す気なのか理論!?」

「ま、そこはいいんだよ。というか、そういう亜鈴状博士だって、黒音産業のクローン技術のおかげでこの世に生を受けたようなものだろう? 生みの親同然の黒音産業を否定することは、自分の存在の否定にもなりかねないと思うなあ。そう思わないか理論? あ、ちょっとさせてもらったよ」

 大鐘大介社長は、亜鈴状一石あれいじょうかずいし博士に残酷な事実を突きつけた。

「そ、それは言わない約束じゃろう……りろん」

「それに、ビリーの場合は、自分で自分のことビリビリ星の住人だとか言ってたから人間じゃないし。宇宙人だし。電池男だし」

 大鐘大介社長はそう言ってビリーのいる強化ガラスの部屋の中に入り、

「てことで、遺伝子サンプルとして髪の毛を一本拝借……」

 ビリーの髪を引き抜くのだが……


\\\ビリビリビリビリ!!!///


「ははは。学ばないなぁ、お前」

 ビリーは、ビリビリしながら微笑した。





 ビリーを連れて黒音くろおん産業へ向かった大鐘大介おおがねだいすけ社長は、難なくビリーの複製クローニングの話を取り付けた。


「大鐘社長。わたくし、そのお話、喜んで引き受けますわ。ただし、条件がありますわ」

 黒音黒音くろおとくろね社長は、頭の上の真っ黒なお団子ヘアをボンボンと揺らしながら、やや高圧的にそう切り出した。

「はぁ、条件。と言うと? 何でも言ってくれ」

 大鐘大介社長は、儲けのためには手段を選ばない男だ。

「条件はこうです。まず、これは弊社の基本料金ですが、クローン技術の提供料とクローンの製造代、並びにクローンの原材料、それに加えクローンの特許使用料をいただきます。さらにビリー・ビリルビンの存在の秘匿が必要かと思いますが……つまりは口止め料のようなものですわ、どんな方法を使って発電しているのか、競合他社にはばらしたくはないでしょうからね。そして最後にこれが最重要の条件、クローン技術提供の追加報酬として、襤褸物怪ぼろもっけ電力の、ビリー・ビリルビンのクローンを使って生み出した電気の売上のうち三パーセントを、未来永劫黒音くろおん産業の取り分とすること。いいですか、利益の三パーセントでなく、の三パーセントですわよ? よろしくって?」

 黒音黒音くろおとくろね社長はその手を、空でそろばんの玉を弾くように動かしながら、条件を提示した。

「さすが黒音社長、抜かりない条件設定だな。だがこれは襤褸物怪ぼろもっけ電力の威信を賭けた計画だ。投資は惜しまない、その条件に同意しよう」

 大鐘大介社長は覚悟を決め、そう答えた。

 両者は握手し、襤褸物怪電力と黒音産業の業務提携が始まった。


 ビリーは、地球人ではないせいか、自身のクローンが生まれることに対し何の抵抗もなかったのであっさり承諾してしまい、早速、ビリーのクローンが大量生産される運びとなった。

 大鐘大介社長は、猛火利増根もうかりますね原子力発電所の有り余る土地にビリーを電池とする発電装置を大量に建設し、人類史上最大規模の発電が行われ始めた。計画は面白いほどに順調に進み、黒音黒音社長の少なくない要求が霞んで見えなくなるほどの異次元に高い採算性をもって、国ひとつ分の、いや世界全体のエネルギー需要を優にまかなえるほどの電力量を、ビリーとそのクローンが生み出し続けた。


 しかし……


 その裏で、奇妙なことが起こっていた。


 ある日のニュース。

「——速報です。世界中からゴミが消滅。近年、世界各地で、ゴミが忽然と姿を消す怪奇現象が多発しています。その一例としてここ五味墓村ごみばかむらは、最終処分場や使用済み核燃料の地層処理の場として長年利用されてきましたが、つい先日、綺麗さっぱり全てのゴミがどこかに消えてしまったと、住人は証言しています」


 ゴミが消えた。


 だが……


 消えたのは、ゴミのような不要なもの、都合のいいものだけでなかった!


「ちょっと何事なの!? うちの愛車がどこかに消し飛んでしまったわ! 泥棒? でもガレージの鍵はしっかりと閉まっていたわ。防犯カメラにも泥棒らしき姿は映っていないし、車は突然、何の前触れもなく無くなっちゃった! 理解できないわ!」


 車が消えた。


 さらに……


「いったい誰なんだ!? うちの美術館からヘルフィメールの絵画を盗んだのは!! もしやと思い大怪盗ザコメにも聞いてみたが、自分の仕業ではないと容疑を否認している! アリバイもあった! とにかく犯人よ、早く絵を返してくれぇ!!!!」


 高価な絵が消えた。


 そしてさらにさらに……



 人間



 までもが続々と消え始めた!!


 世界は未曾有の大混乱に陥った。


〈第三話『黒体こくたい』に続く〉

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