【推敲無し】お題「ソフトクリーム」「思い出の場所」「草原」

ヤクモ

推敲無し

 ソフトクリームは急に食べたくなるものだ。そう言うと、私に甘い恋人は「仕方ないなぁ」と言って、「行くか」と車の鍵を手にする。

「どこに?」

「牧場」

「はぁ!?」

 着の身着のまま、私はかろうじて日焼け止めを塗ると、行き先を告げられぬまま助手席に。

「何か流そうか」

 そう言って、慣れた手つきでカーナビを操作し、私が好きなアーティストの曲が流れ始めると同時に、車は緩やかに動き出した。

「実は連れていきたかった場所があったんだよね」

 あなたは楽しそうに言うが、無計画を嫌う私にしてみればいい迷惑だ。そもそも、そこまでソフトクリーム欲は無いかった。

「ちょっと高速使うけど、30分くらいで着くからね」

 まるで子供をあやすような口調に、私の機嫌はさらに悪くなる。

「なんで牧場なの」

「おいしいソフトクリームがあるらしいよ」

 どうせネットの情報だろう。他人の「おいしい」は半分当たればいいほうだ。この前食べたクレープは好みじゃなかったし。

「寝ててもいいからね」

「30分でしょ。寝ないし」

 車酔いしやすい私は、幼少からの癖で車に乗るとすぐに寝てしまう。当然、高速道路上での30分なんて即寝た。


「着いたよ」

「ん」

 まるで狸寝入りをしていたのではないかと思われるほど、私は間髪入れずに返事をする。車が完全に停止すると、エンジン音が響かなくなるため目が覚めるのだ。

「ここって」

 いや、この人は知らないはずだ。だって、一度もこの場所は話したことが無い。

「あれ、知ってた?」

「…、うん。ここ、家族できたことある」

 山の中、目の前はくりぬかれたような平原が広がっており、さらに独特の動物臭さが鼻腔を刺激する。

「ソフトクリームも食べたことある?」

「食べたことあるし、私がソフトクリーム好きになったきっかけが、ここだもん」

 今でも思い出せる。ちょうどお金の価値を覚え始めた頃で、ソフトクリームが食べたい、とねだったあと、ソフトクリームの値段が500円で驚いたのだ。いつも食べるアイスは200円でおつりが出ていたから、そのギャップがソフトクリームを高価なものにし、私はじっくりそのなめらかな舌触りと溶ける甘さを堪能した。

「連れてきてくれてありがとう」

 家族との思い出の場所なんて、一人だったから来なかった。

「えぇっ、いや、まぁ、それほどでも」

 いつも余裕気な恋人の照れた表情に満足した私は、「行こう」と手を引っ張る。

 あの、衝撃的なおいしさを想像しながら。

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【推敲無し】お題「ソフトクリーム」「思い出の場所」「草原」 ヤクモ @yakumo0512

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