いったい何処のどいつがハーレム野郎なんだ? マジ迷惑なんだが。

403μぐらむ

短話

 折り入って相談がある、とのことで幼馴染の中久保優美なかくぼゆうみが僕の部屋にやってきている。彼女が僕の部屋に来るのはかれこれ3日振りになる。

 先週は一週間のうち5日は来ていたので久しぶりと言っても過言でないのかもしれない。


「で、ユウ相談ってなに?」

「サチ。あのね、わたし告白しようと思うの」

「えっ、告白!? それって愛の告白的なあれのこと?」


 僕の名前は恩田祥おんださちなので、周りからもサチと呼ばれることが多い。

 ちなみに僕は幼い頃から優美のことはユウって呼んでいる。


「うん。もう少しこのままの関係でいいかなって思っていたんだけど、思いの外ライバルが多くてのんびりしていられないってことに気付いたの」

「……よくわからないけど、そうなんだ」


 まさかユウに好きな人がいるなんて考えたこともなかった。

 そりゃそうだよな。ユウだって17歳の可愛い女の子だもの。恋の一つや二つはしていてもおかしくない。


「それでね、サチには協力してもらいたいの」

「僕に協力なんてできるのかな?」


 僕はクラスをまとめるような力もないし、コミュ力つよつよの陽キャって感じでもない。何処にでもいるような平凡な男子高校生の一人に過ぎないから。


「できるの。というか、この役割はサチ以外にはできないの」

「そ、そうなの? でもユウのお願いじゃ無下にはできないよね……」


 そう言うと、ユウはぱぁっと明るい顔をして嬉しそうに僕の手を取りブンブンと振って無邪気に喜ぶ。僕としてはなんかとても複雑な気分。

 内心ものすごく面白くないけれど、ユウの幸せは常に願っていることなので手伝いはしても邪険にする気にはなれなかった。


「ところで、さっきライバルが多くてって言っていたでしょ。それって誰で何人くらいいるかわかっているのか?」


 ユウの意中の人はモテるらしく、複数の女の子から想い狙われているらしい。僕と違ってモテモテ過ぎて嫌味にしか思えないよ。手伝うとは言ったがなんかムカつく。


「そう、まずは行基愛華ゆきもとあいかね」

「えっ! アイカなの?」


 いきなり知っている名が出てきたのでびっくりしてしまう。


 アイカはテニス部のエースで先般の大会でも優勝してきたくらいの女の子。実は僕とはクラスメイトでそれなりに仲良くさせてもらっている。

 彼女はテニス以外のスポーツも得意だし、見た目もかわいい。キラキラ光る亜麻色の髪もきれいで男子からの人気も高いって聞いたことがある。先日も、多分告白なんだろうけど、校舎裏への呼び出しを見たことがあった。


「あのアイカに好きな人がいるんだ……」


 逆にアイカに想われているのに告白していないなんてなんて勿体ないとも考えてしまう。僕が言うことじゃないのは重々承知しているけど。


 そんなアイカと僕が仲良くなったきっかけは意外と単純で勉強を教えてあげているからだ。

 彼女はスポーツが得意だけど勉強の方はかなり苦手なんだ。ある時、僕が数学の問題の解き方を教えてあげたことがきっかけで今では図書室で勉強を教えてあげたりしている。

 特に部活動休止日の毎週水曜日と試験前にはふたりきりでよく勉強会を開いている。ふたりきりなのに色っぽいことが一つもないのは情けない限りだが。


 そんな努力の甲斐があって先日行われた定期考査では全教科赤点回避ができたって喜んでいた。その御礼にって手作りチョコレートを貰ったんだけど、そういやあの時はバレンタインデーだったか? 義理でももらえると嬉しいよね。


「それにしても好きな人がいるなんて話は聞かなかったな」


 当然か。勉強を教えているだけの僕にそんな話をするわけないもんな。

 なるほど、ユウのライバルはアイカなんだね。これはかなりの強敵だ。




「次に――」

「は? 次もいるの?」


 そういえばさっき『まず』って言っていたもんな。それにライバルが多いとも言っていた。


「いるわ……。次は崎島美香さきしまみかよ」

「みかリン? 僕の席の隣の?」


 次に出た名前にも驚かされる。みかリンは僕の右隣の座る黒髪清楚な大和撫子な女の子。楚々とした佇まいは、他のクラスの男子の心も鷲掴みしているようでしょっちゅう僕のクラスまで彼女のことを見に来る男子がいるくらい。


 何でも卒なくできそうな雰囲気があるけど、意外や彼女は結構おっちょこちょいなんだ。教科書を度々忘れてきては僕が机をくっつけて見せてあげることなんかよくあること。

 その流れでお昼ご飯なんかも一緒に食べることもあるんだけど、この前はいつものお礼っていってお弁当を作ってきてくれたんだ。


 いわゆる白魚のような指をしているので料理なんて全くしないなんて勝手に思っていたけど、これがまたお弁当のおかずの美味しいこと、美味しいこと。

 あまりにも感動して「すごく美味しい!」って言ったら、今度彼女の家に招待されることになった。彼女が腕をふるって、できたての料理をご馳走してくれるんだって。


 好き嫌いはあるかなんて聞かれたから、たぶん僕の好きな食材で美味しい料理を食べさせてくれるのだろう。


「みかリンからも好きな人なんて話は聞いてないな。ああ、そうか。料理も僕を練習台にして意中の彼氏の胃袋を掴もうってことなんだな」


 ユウはそんなに料理が得意ではないから、これはこれで強力なライバルになるな。


 それにしてもアイカとみかリンを出し抜いてユウの告白を成功させるなんてなかなか難しいミッションになりそう。




「何を終わったような顔しているの? まだ続くわよ」

「……えっ、まだ?」


「その次は2組の鎧塚舞美よろいづかまいみだわ」

「は? まいまいもなの?」


 まいまいとは1年生のときに同じクラスだった。たぶんユウを除くと学校では一番に仲の良い女の子の一人だと思う。彼女の舞の字からまいまいとニックネームをつけたのも僕だったりする。


 舞美は無類の映画好きで、同じく僕も映画が好きだったので同好の士としてすぐに仲良くなった。


 まいまいとは今でも月に一回は一緒に映画を見に行って、映画館の近くにあるカフェなどで感想を言い合ったりしている。この前なんかかなり遅くまで付き合わせたので彼女を家まで送っていくことになったりもした。

 その時もまだ話したりなかったみたいで、まいまいの部屋に招待されて映画談義に花を咲かせてしまったよ。女の子の部屋なんてユウ以外では初めてだったので緊張したけどいい匂いがする可愛らしい部屋だったな。


 また彼女の家にはシアタールームがあるらしくって、羨ましいって言ったら、今度オールナイトで映画を見明かそうなんて企画もふたりの間で出たりしている。もちろん彼女に家にはご両親もご在宅になるから安心安全だぞ。


「あーそういや、まいまいは最近、恋愛映画ばかり見ていたような気がするな……」


 彼女もまた好きな人がいるなんて話はしていない。


 まいまいも実はメガネで隠しているから分かりづらいけどかなりの美少女なんだよね。休日に映画を見に行くときなんて前髪を上げてコンタクトレンズにして来るから普段からそうすりゃいいのにって話はしたことある。


 ギャップ美人さんは評価が高いな。ユウもおちおち眠れないほどのライバルってわけか。




「最後は――」

「はい〜まだいるのかよ? ちょっと多過ぎない」


「だから最初から多いって言ったでしょ。わたしが焦るのも理解できるよね」

 ごもっともである。さて、じゃあ、その4人目の話を聞こうか。


「最後は、川島茜かわじまあかね。1年生よ」

「んん? 茜っていった? 美術部の?」


 茜は僕の後輩。絵は好きだけど経験が少ないって言うのを僕が手取り足取り描き方を教えてあげたんだ。で、彼女は頑張って先日の県主催の展覧会で入賞までしたんだ。


 一人で観に行くのは怖いっていうから一緒にその展覧会会場まで二人で観に行った。


 彼女の描いた絵は人物画で、モデルはなんと僕だったりする。そういう事もあって僕が会場までついていったんだよね。


「先輩。やっぱり怖いです……。手、繋いでもいいですか?」


 可愛い後輩から頼られちゃすげなくするなんて絶対にできっこない。請われるがまま手を繋いだけど、茜はよほど緊張していたのか全部の指を絡めるいわゆる恋人繋ぎをしてきたんだ。

 なんか嬉しそうな顔していたし、緊張もほぐれてそうだから余計な指摘はしないでおいたよ。だけど会場に入ってからはちょっと混んでいたので腕に抱きつかれたんだよね。これには僕もびっくり。

 だって、ちょっとゲスいけど茜って痩せているくせにあそこがばいんばいんで抱きつかれた左腕が幸せすぎたんだもの。


「茜なんか絵に夢中なのかと思っていたけどなぁ。何しろモデルは僕だからだいたい放課後は一緒に過ごしていたし」


 それなのに一言も言ってくれないなんてなんか切ないな。


 ま、他人に好きな人を話すような子はいないか。まぁ仕方ないってやつだな。


 嫌味がないあざとかわいい女の子は人気が高いと思う。ユウの弱点を突く競争相手としては油断ならないな。




「どう? この4人がわたしのライバルなの。サチはこの勝負、わたしに勝ち目あるように見える?」


「んー正直良くわからないなぁ。そもそも彼女たちの好きな人が誰だかわからないし、ユウだってまだ教えてくれてないだろ?」


「そ、それは……」


「まあそれでもこの4人の中ではユウが一番可愛いと僕は思うよ。スポーツはほどほどだけど勉強はできるし、約束とか決まり事はきちんと守っている。料理は、できないわけじゃない。ユウの作るご飯は普通に美味しいと思う。ちょっと甘え下手なのは茜に劣るかもだけど、ユウだっていっそ恋人同士になれば甘えん坊になる可能性は高いよね」


 僕がユウのこと可愛いと思っていても詮無いことには違いないだろうけど。まあ、ユウはそんな言葉でも喜んでいるようで頬を赤らめてクネクネしているので言っただけの価値は微量ながらあったみたい。


 それにしてもこんな学校じゅうの美少女を集めたような子たちに好かれるような男って誰なんだろう。


 アイカ、みかリン、まいまいに茜。そしてユウ。この5人に共通した男子って――。


「っ! さ、真田か!?」


 彼の名は真田純士郎さなだじゅんしろう。イケメンにしてこんな僕の親友をしていてくれるとてもいいやつ。文武両道のナイスガイといえば真田のことが最初に思い浮かぶ。


 真田なら5人の女の子に言い寄られても不思議ではないな。


 そっか。


 真田かぁ……。


 彼ならユウのこと任しても大丈夫だろうな。


 それに、真田とはいつも僕と行動を共にしているので彼の行動は把握できている。ユウが彼女のサポート役を僕にしかできないと言うのはそういうことらしいな。


「ユウ、真田は髪の短い子が好みだから今のユウが一番理想に近――」

「違うっ!」

「ん、なにが?」

「真田くんじゃないわよっ、好きな人は」

「ええっ、違うの? じゃ、誰よ? なにこれクイズなの?」


 あと思い浮かぶのはダンス部の池田、男バスの立花。あとは文化祭のときキャーキャー言われていた軽音部の山岸くらいか?

 いや、僕と同学年とは限らないな。3年の先輩でもおかしくないし、1年の後輩だって可能性はないなんて言えない。そもそも他校のヤツの場合も考えうる……。


「うーむ」

「そんなに考え込まなくたって一人いるでしょ? ほんと鈍感なんだから……」

「……ん? なんか言ったか?」

「なにも言ってませーん!」


 ピンポーン♫ とインターホンがなった。


「誰か来たみたいだな。宅配便かな? ちょっと行ってくる」

「はい」


 急いで玄関に走りドアを開けてみるとそこにいたのは――。


「やっほ。お邪魔してもいいかな?」

「構いませんよね? お邪魔いたします」

「へへ、来ちゃった。お邪魔するね」

「先輩のお宅……興味あります。失礼しまぁす」


 我が家に突然にやってきたのはさっきから話題に上がっていた4人。アイカ、みかリン、まいまいに茜の4人だった。4人は僕に有無を言わせずに家に上がり込んで僕の部屋まで一直線に向かっていく。


 あれ? 僕の部屋何処だか教えたことあったっけ?


「見つけたわよ! 一人抜け駆けとはいい度胸ねっ」

「ずるいですね」

「卑怯者!」

「先輩だからって許せません」


 部屋に入るやいなや4人はユウのことを罵り始める。


「うるさいわねっ、こんなの早いもの勝ちだし、わたしは一番付き合いが長いのよ! 初チューだってわたしだもん」

「保育園時代なんてノーカンだよ」

「無効です」

「NG!」

「そんなものに縋っても無駄です」


 何で争っているのか部屋が狭くて部屋のなかに入れていない僕にはわからないが、5人で喧嘩しているようなのでホントやめていただきたい。


「わたしが!」

「ウチが!」

「私がっ」

「あたしよっ」

「ここは譲りません!」


 わちゃわちゃとしているが殴り合いとかにはならなそうなのは不幸中の幸いなのか?


「おにーちゃん、ただいま。どーしたの? なんだか人がいっぱいいるみたいだけど」


 中学3年生のいもうとが帰宅した。


「ああ、夏菜かなか。おかえり。僕もよくわからないんだけど、どうもあの5人で誰だか男子一人を取り合いしているみたいでさ。ま、その男子は誰だか僕にはてんでわからないんだけど……」


「ふーん……。なるほどね」


「なるほどって、カナには何が起きているかわかるのか?」


「もちろんよ。ちょっと行ってくる」


 そう言うと夏菜は僕の部屋にずいずいと入っていく。よくもまぁあの中に入っていけるよな。流石夏菜、略してさすカナ。僕のかわいい、かわいいいもうと。


「ちょっと、あなた達。ねぇ、泥棒猫さんたち。ごちゃごちゃ騒ぐなら野良猫らしく公園の隅にでもいってニャーニャー言っていればいいでしょ?」


「は? あんた誰よ」


「どーも。祥のいもうとのカナと申します。ユウさん以外はお初ですね。いつもわたしの大切で大事ながお世話になっております」


「お義兄様……、ってあなた義妹?」


「あなた達、わ・た・し・の・お義兄様に余計な手出しは許しませんよ」




「ま、まさか6人目……」




 ? なんだか6人目がどうこう聞こえたような気がするけど、気のせいかな。


「はぁ、それにしても件の男子って誰なんだろうなぁ」


 その男子のせいで僕がどんなに苦労しているか、ソイツはわかってくれないんだろうな。


「ほんと鈍感男子ってやつにはやれやれだよね……」


 階段の隅に座り窓の外に見える夕日に向かいため息を吐く僕だった。

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