十分後

「な、なぜだ……どうしてこんなことに……」

「まあ正直読めてた展開ではありましたけど」

「こんな……あまりに一方的な……」

「……ちょっと手札、見せてもらっていいですか」

「あっ、こら! ズルだぞ!」

「いいでしょ、もう勝負はついたんだから……ああやっぱり。あのね、おじさん。もうちょっとものごとの順序ってものを考えないと駄目ですよ。良いカードが手札にそろってウキウキしちゃうのは分かりますけど、その前に最低限、戦いの地盤を作っておかないと。いくら強いカードでも、それ一枚だけを場に出したところでなんにもならないんですから。多少弱いカードでもとにかく陣地を固めて、適度に相手を牽制したりもしながら、なるべく自分に有利な状況に持っていって、ここだ、っていうところで持ち出すから武器は仕事をするんです。『いずれつよつよカードで一撃のもとにムヒヒヒ……』ってのがバレバレの顔してましたけど、そんなだからすぐ相手に気取られて、速攻で雑兵に囲まれて討ち取られるんですよ」

「うううう……」

「こないだのオセロの時も同じこと言いましたよね? おじさん、明らかに無駄なところに置いてまで四隅を取ることに固執しまくってましたけど、いくら四隅を取ってもそれだけじゃあ勝てないんですよ。そういう『いつかは一発逆転』みたいな考え方ってよくないですよ。いかにも子供っぽくて」

「う、う……う! うるさい! 子供のくせに! カードゲームはもうやめだ! よく考えたらこんなのただのオモチャじゃないか! 子供子供! あー子供っぽかった。いやだいやだ。子供がうつる。エンガチョ切った!」

「ここまでムキになられると、むしろ童心をくすぐられますね」

「次はかけっこで勝負だ!」

「……逆にすごいですね。『かけっこ』なんて言葉、今日び小学生でもなかなか出てきませんよ」

「くっくっくっく……貴様と俺との身長差は約五十センチ……大人の脚力から繰り出される鮮やかなストライド走法の前に、貴様はあえなく敗れ去るのだ! 子供と大人の肉体的な力関係というものをとくとわからせてやる!」

「おじさん無駄にタッパだけはありますからね。短足ですけど」

「短足じゃないもん! 百八十センチあるもん!」

「短足であることと身長が高いことは矛盾しませんよ。比率の問題ですから」

「ご、御託はいい! 早く行くぞ! 勝負の場は河川敷公園だ!」

「えー……てか私、外とかあんまり出たくないんですけど。せっかくの日曜日なのに」

「そんなことでどうする! 子供は風の子! 元気な子! 雪が降っても半ズボン! マフラーなんて認めません!」

「古典的な大人の決めつけですね。てか力競べがしたいなら、別に腕相撲とかでもいいんじゃないですか? それだったらたぶんおじさんが勝てますよ。よかったですねー。まあ小学生を腕相撲でねじ伏せてイキる存在を大人と仮定すれば、の話ですけど」

「そういう原始的な腕力勝負みたいなのはよくない。文明的じゃないし、なによりフェアじゃない」

「さっきと言ってること無茶苦茶じゃないですか? ……あれれ? もしかして自信がないんです? ひょっとして?」

「だ、黙りたまえ! いいから、さっさと靴下を履きなさい!」

「えー……わかりましたけど、だったらおじさんもその服、着替えてくださいよ。そんなので外出たら、二十歩も行かないうちに職質間違いなしですよ」

「……え? そうかな。別によくない? 動きやすいし」

「いい年してそんな子供みたいな格好してる人間のことを、世間一般では『不審者』と呼ぶんです。せめてもうちょっとちゃんとした服を着てください」

「ふし……そ、そうか。じゃあ、まあ一応着替えるか。一応ね」

「なんでもいいから早くしてくださいよ。私もう靴履いて外で待ってますから」

「あっこいつ……はめやがったな!」

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