メスガキvsわからせたいおじさん
戯男
わからせ開始
「おい、そこのメスガキ」
「なんですか、このオス非正規雇用おじさん」
「てめっ……三つ言い返すのはずるくない?」
「子供みたいなこと言わないでください。それに、全部本当のことでしょ」
「あのね。本当のことだからこそ、言っちゃダメってこともあるんだよ」
「ずるいですね。さすが大人」
「そうとも。はっはっはっは。今日こそ貴様に大人の力というものを……そして子供の立場というものをはっきりわからせてやる」
「おっ。とうとうわからせックスですか」
「いや……子供とそういうことするのは大人のやることじゃないでしょ。てかそんな下品なことを口にするのはやめなさい。どこで覚えて来たんだまったく」
「そのへんの分別はちゃんとあるんですよね、おじさん」
「もっとこう、大人に有利な、大人としてのアドバンテージを存分に発揮できるやり方で、完膚なきまでにコテンパンにして、子供の無力さを思い知らせてやる」
「大人気ないって言葉知ってます?」
「知りませーん。知ってても忘れました。なぜなら私は大人だから」
「大人ってか魚雷じゃないですか」
「その年でそんなの読んでるの?」
「おじさんの本棚にありましたけど」
「い、いけません! あんなの読んだら……頭がおかしくなりますよ!」
「急に大人みたいなこと言いますね。だったら子供の手の届く場所にそんなの置いとく方が悪いでしょ。特に本棚の裏のアレとか……」
「な、なんでそれを!」
「おじさん、子供をなんだと思ってるんですか? 子供にだって手も目も、考える頭もあるんですよ?」
「この……生意気なメスガキだ。今日こそわからせてやる」
「いいですよ。私の方こそ、おじさんが大人でもなんでもない、無力で低所得で信頼性皆無で孤独死一直線の、異形の子供だってことをきっちりわからせてあげます」
「……ちょっと泣いてもいいかな?」
「駄目です。大人でしょ」
「そ……そうとも! 俺は大人! そして貴様は子供! その立場の違いってものをはっきりさせてやるぞ!」
「はいはい。で、今日は何で勝負するんですか。またオセロですか。それとも将棋? バックギャモンなら大家さんに借りてきますけど」
「そういう頭を使う系のゲームはダメだ。てんで歯が立たないってことがはっきりした」
「見極めが素早いですね。いかにも大人っぽいです」
「そうかな」
「馬鹿にしてるんですよ?」
「い、嫌味を言うなんて……だから子供って嫌いさ!」
「子供の概念が崩壊しそうです」
「今日はこのトレーディングカードで勝負だ!」
「ゲームの概念が崩壊しました」
「貴様に使ってもらうのは初心者用のスターターデッキ……だが俺が使うのはこの、金に物を言わせてゴリゴリに強化した鬼改造デッキだ。くくくく……大人の財力にうち震えるがいい……!」
「そんなものにお金をかける人を、果たして大人と言えるんですかねぇ……」
「そういうことを言うのはよしなさい」
「っていうか、どっから持ってきたんですか、そんなの。まさか無駄遣いしたんじゃないでしょうね」
「いや、文房具屋のマサルさんに借りてきた」
「……無駄に顔広いですよね、おじさんって。でも私、それのルール知らないんですけど」
「武士の情けだ。スターターデッキにはルールブックも入っている。だが……ふふふふ。これを読んでいいのは五分間だけだ」
「なんでですか」
「それが大人のやり方だからさ……」
「一回ちゃんと概念のすり合わせをした方がいいみたいですね、私たち」
「子供はやがて受験戦争という、ある種のルールに縛られた世界に放り込まれることになる……そしてその準備はそれぞれが自力で進めなければならない……しかも限られた短い時間の中でだ……! とか、まあそういう感じのアレかな」
「なんかいろいろ穴だらけのたとえですけど」
「ちなみに制限時間はもう始まっています。あと残り四分三十秒」
「ちょっ! 汚なっ!」
「ふはははは。なんとでも言え……時間は待ってくれないのだ……そう、人生のように……人生のようにな……ふううぅ……」
「なんでおじさんがダメージ受けてるんですか」
「う、うけてないし! さっさとその小っちゃな脳ミソにルールを詰め込むことだな! そして俺は今から大声で歌を歌ってそれを妨害します。いらかの波と雲の波……」
「童謡じゃないですか。しかも声が微妙に小さい」
「あんまり大っきい声出したら近所に迷惑だろ」
「わあ。大人ですね」
「はい五分経ちましたー! ルールブックは没収ですー。はははは……ここから始まる容赦なき大人劇場。ルールもろくに知らない、いたいけな子供を、金で強化しまくった反則スレスレのイカサマデッキでギタギタに蹂躙……まったく、これだから大人はやめられんわい」
「そうですね。そもそもなれてすらいないものは、やめることなんてできませんからね」
「やかましい! わからせスタンバイ!」
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