第6話:どうして文芸部に⑤

 「お疲れさま〜。ごめんね、担任の先生に頼まれたことがあって遅れちゃった」

「渚先輩、お疲れ様です」

「おお渚、今日はこのまま来ないのかと思って寂しかったんだぞ」

「もう蓮くんったら、大袈裟よ。でもそういうところも可愛くて好きよ?」

「ははは、今日もあざといな。俺もそういうところが大好きだ」

「あざとい以外のところは?」

「もちろん大好きだとも!!」

「............」

 一年生二人は蚊帳の外らしい。離れていた時間を埋めるように、人目を構わずお互いを求め合っている。ちなみに卑猥な意味ではない。しかし、いきなりこんな光景を見せられて、何も思わない新入部員もいないだろう。

 先輩方二人にため息をつきながら、まるで独り言のようにこぼす。


 「言ったろ、先輩たちはいい人だけど変だぞって」

「............」

 へんじがない、ただめのまえのこうけいにぜっくしているようだ。


 『もしかしてだが、やばい部活に入った、この部室はやばいところという認識を植え付けることができれば、少なくとも部室には来なくなるんじゃないか? そうすれば俺のオアシスは最低限守られるのでは......』

 なんたる暁光か。アホな先輩二人の行動により、ここに来て最終防衛のチャンスが生まれるとは。先輩二人が正気に戻ってこちらに話を振る前に、諭すような口調で話しかける。


 「まあ、先輩二人は基本的にこの部室にいるから、もし顔を合わせたくないなら部室に来なければいいさ。集まらないといけないのは最低月一回だし、どうしても気に入らないなら部長も去るもの追わずって感じだし......未羽?」

 ここぞとばかりに捲し立てたが、冬華からはこれといって反応がない。どうしたのかと俯く顔を覗き込んでみる。

 これは......怯え? それとも後悔?


 「そうだ渚。嬉しいことに、今日は新入部員が入ってきたんだ」

「あら、そういえば今日は夏輝くんの他にもう一人いる......ってあれ?」

 俺らがいること気づいてなかったんかい。

 とツッコミを飲み込む傍ら、疑問符で発言を切り上げたことが引っ掛かった。その疑問は、この後直ぐに解決することになる。


 「ふゆちゃんじゃない? もしかして新入部員ってふゆちゃんのこと?」

 大輪の花のように顔を輝かせながら、渚先輩は未羽に近づいた。先ほど夏輝がしたように顔を覗き込もうとするも、なぜか見せようとしない。

「ふゆちゃんって、渚先輩、知り合いなんですか?」

「知り合いも何も、私の妹よ?」

「は!?」


 思わず大きい声を出してしまう。確かに日本人とは違うブロンドの髪とか、言われてみれば顔も似ているような気がする。話し方や柔らかい性格は真逆だが。


 「ひ、人違いではないでしょうか」

 身内に対して今から誤魔化そうとするのは、流石に無理があるのでは。

「人違いなわけないでしょー? いつも家であってる妹なんだから」

「......っ」

「それにそのスタイル、スリーサイズは上からきゅうじゅ......」

「ちょっとぉ!? 何言おうとしているのなぎさぁ!」

「ほら、やっぱりふゆちゃんじゃない」

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