第3話:どうして文芸部に②
「文芸部ってどんな活動をしてるの? その定期的な刊行物を出しているだけ?」
どこに興味を持ったのか、冬華は文芸部に関して追求する。勧誘されなかった部活の活動が気になるのだろうか?
それはさておき、特に隠す理由もないため、夏輝は素直に答える。
「基本的にはそれだけだな。たまに集まって駄弁ったりすることはあるけど。そうそう、今年は夏休みに合宿を計画しているとかなんとか」
「へえ、合宿が。どこに行くとかは決まってるの?」
「部長副部長が話し合いはしているのかもだけど、俺は何も聞いてないな。せっかく合宿って名目で行くなら予算が降りるらしいから、ちょっと遠くに行きたいらしいけど」
「ふーん......案外楽しそうね」
「まあな。先輩たちも悪い人たちじゃないし」
夏輝は饒舌に語る。集まりは決して頻繁にあるわけではないが、縦のつながりが乏しい夏輝にとって、数少ない先輩と話す機会なのだ。
「私も文芸部入ろうかしら」
「どういう思考プロセスを経てそうなったのか詳しく」
「そんなに活動していないなら、私が入っても言いふらしたりしないだろうし。夏に家に引きこもってずっと勉強、ってのも、華の高校生活なのに味気ない気がするし」
「分からんでもないが......いやしかし」
「なによ、私が文芸部に入ったらなにか不都合?」
キッと鋭い目を向けられ、夏輝はわずかにたじろぐ。負けじと言い訳を絞り出し、なおも抵抗を続ける。
「そうではない、そうではないが......未羽、小説なんて書いたことあるのか? ないなら苦労することもあるだろうし......」
「書いたことないけど、何とかしてみせるわよ。ていうかその言い方だと、あなたは入部以前にも書いてたことがあるのかしら」
「......っ!」
しまった、墓穴を掘った。誰にも見られないよう、勉強机の引き出しにしまってある黒歴史を思い出してしまった。
未羽の鋭い追求からは咳払いで逃れ、夏輝は続ける。
「先輩二人も変わり者だし」
「さっきいい人って言ってたのに?」
「いい人だけど! それを覆い隠すほどの変なペアというか」
「社会に出たら、馬が合わない人ともうまくやってく必要があるしね。いい練習じゃないかしら」
「......」
どうやら夏輝はネガティブキャンペーンが下手らしい。こんなチンケな言い分では、オアシスの防衛なんてできそうもない。
異分子は取り除かねばならない、などと意気込んだものの、いざ入る意思を固められると理論武装の前には無力。楽園が侵略され崩れていく音を幻聴しながら、夏輝は歯を食いしばり血涙を堪えるしかなかった。
「それなら決まりね。入部届を出しに行きましょ」
「今からか!? 一度家に持ち帰ってからよく考えてからでも」
「必要ないわ」
「そうですか......」
手早く荷物をまとめると、冬華は職員室に向かうべく図書室を後にした。それに引きずられるように、夏樹もその背中を追いかけた。
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